【経済学】マンキュー経済学14章 競争市場下における企業行動について②

毎度おなじみのミクロ経済学の読み比べです。今回の内容は、完全競争市場における企業行動となります。今回の内容を土台として、独占、寡占、独占的競争へとテーマは拡大していくこともあり、企業行動を学ぶ上で非常に重要な回となっています。
経済学入門の本であるマンキュー、クルーグマンスティグリッツでは解説の方法もほぼ似っています。一方、ミクロ経済学の入門書である八田、ヴァリアン、武隈、西村ミクロはそれぞれ個性的な解説を行っています。
マンキューは数式での説明を極力廃止し、言葉での説明を重視しているため、直感的な理解には役立ちますが、厳密性にはかけてしまいます。そのため、ミクロ経済学の教科書を読むことで厳密性をある程度は補う必要があるでしょう。個人的には、マンキューと西村を組み合わせて読むことで、より理解が深まるものと思います。


①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter14 Firm Behavior and the organization of industry

  • 「完全競争」と「利潤最大化」の仮定を充分に説明した後に、企業の行動を解説している。簡単な数式あり。
  • 完全競争の特徴として「多数の売り手・買い手」「売り手によって供給される財はほぼ同じ」「企業は自由に市場に入退出出来る」ことをあげている。
  • 企業の「インセンティブ」、「合理性」、「時間概念」の視点から、企業行動及びこれから導き出される供給曲線を説明している。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter13 Perfect Competition and the supply curve

  • 説明の基本的な流れはマンキューと同様。マンキューよりもやや丁寧に説明している印象あり。
  • opitimal output rule(MR=MC)及びPrice taking firm's opitimal output rule(P=MC) の用語解説あり。
  • 完全競争市場における長期市場均衡は効率的な資源配分(費用が最小化され、資源の無駄は存在しない)を達成していることについて言及している。


③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter7 the competitive firmP155〜P174

  • 説明の基本的な流れはマンキューと同様。マンキュー、クルーグマンに比べ、説明はあっさりしている。
  • 完全競争市場では利潤はゼロになるが、そのような状況でも市場への企業の入退出が存在する理由として、Opportunity CostとEconomic Rentをあげている。
  • Eonomic Rentとは希少なtalentに対して支払われる超過支払部分のことである。ある企業が他の企業よりも効率的である場合、当該企業はEconomic Rentを得ていることとなる。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅱ 効率化と格差是正東洋経済新報 2章供給P57〜P95

  • 図を用いた余剰分析の視点からの説明を重視している。
  • 短期と長期といった視点での分析はなされていない。
  • 短期と長期の説明がないことから、操業停止点を生産者余剰の点から解説している(操業停止点を「生産者余剰がある生産量で正になる場合には、企業は操業を行うべきであり、いかなる生産量でも正にならない場合には、操業を停止すべきだということになります。」と解説)。


⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chap22,23 P395〜P437

  • Chap22で企業の供給曲線を、Chap23で産業の供給曲線を解説している。
  • 産業の供給曲線では、企業の産業への入退出を扱っている。
  • 産業への入退出に制限がある場合の長期費用曲線についても扱っている(例:ニューヨーク市でのタクシーライセンス等)。


⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 3.1費用と供給 P72〜P103

  • 企業行動を数式を用いて費用関数と生産関数の視点から解説している。
  • 生産が労働と資本に依存し、短期的には資本量は変化できないという仮定の下、生産関数から企業の短期費用関数と長期費用関数を導出している。
  • 要素需要関数(生産に用いる生産要素の購入に関する関数)を用いて、要素価格がその要素需要に与える「自己効果」や他の要素の需要に与える「交差効果」の説明も行っている。


⑦西村和雄(1995)「ミクロ経済学入門第2版」岩波書店 第8章企業の長期費用曲線と市場の長期供給曲線P165〜P183

  • S字型の生産関数を想定して「いない」状況で、まず以下のことを指摘。すなわち、長期においては、固定費用の概念が存在せず、また新規企業が産業に参入したり、既存企業から退出することが自由に出来るため、短期の分析のように一定数の個別企業の供給曲線の水平和をとって、市場の供給曲線を得るという方法をそのまま長期分析に適用することは出来ない。
  • そこで以下の2パターンの視点から長期費用曲線を分類している。一つ目は、個々の企業が生産量を増加するときに、その企業の平均費用が増加するか、減少するかによって、長期費用を分類する方法(長期費用を一定・逓増・低減に分類)。
  • もう一つは、産業の規模が拡大するにつれ、個々の費用曲線そのものが上にシフトするか下にシフトするかで、産業を分類する方法。こちらでは、産業全体での生産量の増大が金銭的・技術的外部効果を通じて個々の企業の費用関数をどのようにシフトするかという視点から長期費用曲線を分析している。