【経済学】マンキュー経済学16章 寡占

ミクロ経済学読み比べの今回のテーマは「寡占」です。ミクロ経済学の生産の理論において、完全競争市場や独占の理論はやや極端な仮定の下で企業がどのような行動をするかを分析していますが、寡占においては、比較的現実の状況に近い想定がなされています。

一方で、現実に近い状況を想定すれば、とたんに分析の難易度はあがることとなります。この複雑さを分析する際の手がかりとなるのが、相手の動きを予測した上で意思決定を行う「戦略的」という概念になります。各種教科書では、この戦略的な状況をどのように扱っているかで、寡占の説明の仕方も変わってきます。

マンキュー、スティグリッツクルーグマンは寡占の章において、初めてゲーム理論の考え方を導入しています。他方、日本語の教科書である武隈ミクロ、八田ミクロ、西村ミクロではどれも寡占単独の章を設けていない上に、ゲーム理論的な解説もあまり行われていません。代わりに、反応関数や屈折需要曲線の解説に力を入れています。恐らくですが、日本語の教科書では、公務員試験や資格試験、大学院入試をある程度は想定して作られているため、こういった解説になっているものと思われます。反対にマンキューらの教科書では、反応関数や屈折需要曲線の解説は出てきません(クルーグマンには詳しい解説あり。)

そんな中、バランスが取れているのは、ヴァリアンです。ゲーム理論的な解説も行われいますし、反応関数も扱っている上、さらにシュッタケルベルグ均衡やベルトラン均衡も出てきます。ヴァリアンでは多様な寡占のモデルを紹介しているので、寡占の性質を様々な角度から知ることが出来るという大きなメリットがあります。

まとめとしましては、寡占の直感的な理解をするためにまずはマンキューを読んで、理論的な厳密性を学ぶためにヴァリアンで補足するという学び方がいいと思います。武隈ミクロや西村ミクロでは説明が短すぎて恐らく消化不良になるのではないでしょうか。ヴァリアンが重い場合は、クルーグマンをしっかりと読めば学部レベルの寡占はほぼ問題なく網羅できると思います。

①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter15 Monopoly P311〜P341

  • 寡占市場を分析するに当たり、まず完全競争市場と独占市場との違いを解説している(供給量は独占より多く完全競争市場より少なく、価格は独占より低く、完全競争市場より高い)。
  • ゲーム理論囚人のジレンマ)を用いて寡占企業による協働の難しさを解説している。
  • 寡占に対する政府政策としてアンチトラスト法を紹介しているが、グラフや図による寡占市場の分析はなされていない。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter14 P355〜P386

  • マンキューと同様に寡占で1章を割いている。解説の内容はマンキュー、スティグリッツよりも充実しているとともに、具体例も非常に多い。ただ、読むには少々骨が折れる。
  • 寡占度を測る例として最初にハーフィンダール指数を紹介している。
  • ゲーム理論の説明に加え、屈折需要曲線もグラフつきで説明もあり。

③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter12 Monopoly,Monopolisitic Competition,and Oligopoly P261〜P287

  • Chap12にて、不完全競争(独占、独占的競争、寡占)の一つとして寡占を解説している。
  • ゲーム理論を用いて寡占の協働の難しさを説明しているが、内容的にはマンキューやクルーグマンほどは充実していない。
  • 企業が協働しないときの企業の戦略として、restrict competition(競争制限)を紹介している。具体的にはexclusive territories,exclusive dealing,tie-ins,resale price maintenance等。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅰ 市場の失敗と政府の失敗への対策」東洋経済新報 第6章 規模の経済:独占P205〜P239

  • 寡占を説明した章はなし。
  • 規模の経済:独占の章にて、寡占の例が一部出てくるが、寡占のモデル自体は解説していない。
  • 11章「権利の売買」にて、数量カルテルを扱っている。また、寡占の典型的な状況としてテレビ局の認可(ライセンス制)を紹介している。


⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chapter27 P497〜P520

  • 寡占単独の章を設けている。数式での解説も多数あり。
  • 寡占の様々なモデルを紹介している。具体的には、quantity leadership(Stackelberg),price leadership,simultaneous, quantity setting(Curnot),simulataneous price setting(Bertrand),collusive solution,punishument starategy等。
  • モデルの解説が多いが、想定しているモデルの仮定や具体例も解説されていて、文章の量は多いものの、非常にわかりやすい説明になっている。


⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 6章不完全競争 P185〜P191

  • 数式とグラフのみ抽象的な議論で複占市場を解説している。ゲーム理論を直接用いた解説及び具体例はなし。
  • 複占市場のモデルから始まり、反応関数を設定し、そこからクールノーナッシュ均衡を導き出している。
  • 二つの企業にそれぞれ先導者と追随者の役割を与えることで、シュタッケルベルク均衡を導き出している。


⑦西村和雄(2011)「ミクロ経済学入門第3版」岩波書店 第10章不完全競争市場P150〜P155

  • 不完全競争市場の章の中で、寡占を解説している。ゲーム理論を直接用いた解説及び具体例はなし。
  • 反応曲線から寡占市場における均衡点、すなわち独占均衡に比べて価格は低く生産量は多い状況を解説している。また、企業数を増やすことで、完全競争均衡の生産量に近づいていくことを数式で説明している。
  • 寡占価格が費用の変化に対して硬直的であることを説明する理論として、屈折需要曲線、売上最大化仮説、マークアップ原理についての解説がある。

以上