【経済学】マンキュー経済学15章 独占

毎度おなじみのミクロ経済学の読み比べです。今回は独占についてです。

独占は完全競争の次に学ぶ分野となりますが、大別すると教科書によって独占単独の章を設けている本と独占的競争や寡占市場と一緒に扱っている本の2種類に分けられます。マンキューでは、前者の立場をとっていることから、独占にまつわる問題や原因、対処法がより深く考察されています。

一方で数学的記述は皆無のため、理論的背景がきちんと学べないという欠点もあります。具体的には、限界収入曲線の傾きは需要曲線の二倍(絶対値ベース)になること等です。この点はクルーグマンでは図とグラフを用いて丁寧に説明していますが、それほど難しくない数学で証明できるので、ラーナーの独占度を含めヴァリアンや西村ミクロで補った方がいいでしょう。その他、独占の理論では企業戦略の話も出てくるので、経営学の本や「戦略の経済学」をあわせて読むのも面白いと思います。

①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter15 Monopoly P311〜P341

  • 独占の説明に1章を割いている。数式を使わずグラフと言葉のみで、独占が起こる原因、独占状態での企業の価格に関する意思決定、独占の経済厚生、独占に対する政府の対応等を解説している。
  • 独占が起こる原因を3つ指摘(独占資源、政府の規制、自然独占)。
  • 経済厚生(生産者余剰と消費者余剰)の観点から、死荷重を解消する方法を4つ指摘している。(反トラスト法、価格規制、国有化、何もしない(政府の失敗に関するスティグラーの議論を引用))。

②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter14 P355〜P386

  • 独占の説明に1章を割いている。レベル的にはマンキュー、スティグリッツとほぼ同じ。3冊の中では一番解説が丁寧だが、その分記述も一番多い。
  • 独占企業の収入における二つの逆の効果、すなわちquantity effect(生産量を増やすことで増える収入)とprice effect(価格を下げることで減る収入)についての記述あり。
  • 飛行機の座席を例にした価格差別の説明が充実している。なお、完全価格差別(Perfect Price Discrimination)を達成すると消費者余剰はなくなり、生産者余剰が最大化されるという驚きの指摘もあり。


③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter12 Monopoly,Monopolisitic Competition,and Oligopoly P261〜P287

  • 独占、独占的競争、寡占で章で独占を解説している。レベル的にはマンキュー、スティグリッツと同等。
  • 需要曲線の傾き(弾力性)により独占価格がどのように変わるかを図を用いて解説している(他の本で解説されている言葉でいえば、ラーナーの独占度)。
  • 独占市場において生じる価格差別を、各国の薬の価格を事例として解説している。薬の例はクルーグマンでも用いられているが、スティグリッツ南アフリカの例を扱うことで社会的な側面からこのような価格設定を批判している。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅰ 市場の失敗と政府の失敗への対策」東洋経済新報 第6章 規模の経済:独占P205〜P239

  • 第6章にて、「規模の経済」が生む独占の市場の失敗を解説している。完全競争市場や寡占市場とは連続して解説は行われていない。
  • 独占の弊害(死荷重及びX非効率性)を解説した後、独占の対策を詳細に説明している。
  • 独占の対策として国有化、価格規制、独占企業の民営化の3つを挙げている。それぞれの対策において、死荷重とX非効率性がどれほど解消されるかを実際の事例を用いて説明している。

⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chapter24 P439〜P460

  • 独占の説明に1章を割いている。
  • 独占企業の価格設定を数式を用いて解説している。数式の展開は他のテキストと比べて一番丁寧。
  • 独占企業に課税したケース、著作権の長さの適正性、企業の独占の原因となるminimum efficient scale(平均費用を最小化させる産出量。MESが少なければ市場は競争的になるが、MESが大きい場合は、生産量を多くしなければ平均費用が少なくならないため必然的に独占となる。)等の事例が豊富。

⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 6章不完全競争 P179〜P183

  • 不完全競争の章にて独占を解説。5ページしかないがエッセンスは詰まっている。
  • ラーナーの独占度((P-MC/P))についての説明あり。
  • ラーナーの独占度と需要曲線の関係から、ラーナーの独占度が需要の価格弾力性の逆数に等しいことを解説している。

⑦西村和雄(2011)「ミクロ経済学入門第3版」岩波書店 第10章不完全競争市場P143〜P160

  • 「第10章不完全競争」で、独占、寡占、独占的競争を解説している。なお、各企業の直面する需要曲線が右下がりである市場を「不完全競争」と呼んでいる(完全競争では企業は、水平な需要曲線に直面している)。
  • 数式を用いることで、限界収入曲線の傾きは需要曲線の傾きの2倍になることや、ラーナーの独占度(価格が限界費用から乖離する度合い)を説明している。
  • 規制の下では自然独占企業が費用最小化の努力を怠る「X-非効率性」についての言及がある。平均費用価格形成や2部料金制を用いても、このX非効率性は回避することが出来ない。

以上