【経済学】マンキュー経済学17章 独占的競争

今回のミクロ経済学読み比べのテーマは不完全競争3部作(独占、寡占、独占的競争)の最後となる独占的競争についてです。どの教科書においても扱っているページは独占や寡占よりも少なく、また、解説においてもそれほど大きな違いはありませんでした。あえて違いを挙げるとすれば、具体例や応用例の豊富さのぐらいでしょうか。

独占的競争の特徴は「多数の企業がいる」「製品が異なる」「参入退出が自由」といった仮定がおかれていることです。これらの仮定は、完全競争や独占競争の極端な状況からより現実に近づけたものとなります。また「製品が異なる」ことが競争力につながることから、経営学マーケティング論の分野とも大きく関係しています。

しかしながら、経済学の代表的な教科書であるマンキューやクルーグマンではそれほどマーケティングの内容は扱っていなく(あたり前?) 、重点を置いているのは例えば「広告」に関する経済学的な意味づけ等であり、あくまで経済学の立場を貫いています。

基本的な独占的競争のモデル自体はそれほど難しくないので、マンキューを読んで、数式的な解釈として武隈ミクロで捕捉すれば、学部レベルの内容は十分カバー出来ると思います。さらなる応用例を学びたい場合は、ヴァリアンがお勧めです。ヴァリアンでは「Monopoly Behaivor(独占的行動)」といった単独の章があり、独占及び独占的競争の応用例がふんだんに紹介されています(独占の章も別に存在します)。
 最後に、独占的競争がテーマにもかかわらず、それぞれの教科書の独占的競争の説明においてはそれほどの製品(解説?)差別がないのは、なんたる皮肉と感じた次第です。

①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter16 Monopolistic competition P345〜P364

  • 独占的競争で1章割いている。なお、5th editionでは、完全競争→独占→独占的競争→寡占の順番で章が構成されている(4th edition(日本語版)では、寡占の後に、独占を解説している)。
  • 独占的競争の特徴として「excess capacity」と「mark up over marginal cost」を解説している。
  • 「Advertising(広告)」の経済学的な意味をシグナリング等を用いることで説明している。具体例が非常に豊富。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter14 P355〜P386

  • 独占的競争で1章割いている。扱っているトピックはマンキューとほぼ同じ。
  • 製品差別の類型として「differentiation by Style or Type」、「differentiation by location」、「differentiation by Quality」の3つを紹介している。
  • 独占的競争における短期と長期の均衡の違い、独占的競争と完全競争の違いの解説はマンキューよりも丁寧(だが、その分長い)。


③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter12 Monopoly,Monopolisitic Competition,and Oligopoly P261〜P287

  • Chap12にて、不完全競争(独占、独占的競争、寡占)の一つとして独占的競争を解説している。
  • 内容的にはマンキューやクルーグマンほどは充実していない。
  • 応用例の紹介も特段なし。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅰ 市場の失敗と政府の失敗への対策」東洋経済新報
・(ざっと見たところ)該当する章なし。


⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chapter25 Monopoly BahaviorP461〜P484

  • Monopoly Behaviorの章の一部で独占的競争を解説している。その他はPrice Discrimination(価格差別)、Bundling(セット販売)、Two part tariff(2部価格)の解説等。
  • 独占的競争の解説はグラフでのみ行っており、数式での解説はなし。
  • 独占的競争の応用例として、location model of product differentiation,product differentiation,more vendorsを紹介している。いずれも数式はなく、直感的な説明のみ。


⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 6章不完全競争 P192〜P195

  • 不完全競争の章において「製品差別と独占的競争」という節にて独占的競争が解説されている。
  • 二つの企業が類似商品を販売している状況を仮定したモデルで独占的競争を解説している。互いの製品価格が、自社の製品価格に影響を与えるという、寡占的な状況を想定している点がポイント(他の教科書ではこのことは明示されていない。)。
  • 独占的競争の長期均衡を数式を用いて解説している(長期均衡の状態では、需要曲線の傾きと平均費用曲線の傾きが等しくなる)。


⑦西村和雄(2011)「ミクロ経済学入門第3版」岩波書店 第10章不完全競争市場P155〜P157

  • 不完全競争市場の章の中で、独占的競争を解説している。
  • 具体例や数式での解説はなく、グラフでのみ解説を行っている。
  • 理論的な解説の内容はマンキューとほぼ同じ。

以上