バランスシート不況を考える1〜バランスシート不況とは何か〜

本日春季証券投資セミナーに参加し、野村證券のチームエコノミストであるリチャード・クーさんと経済評論家の勝間和代さんの講演を聞いてきました。リチャード・クーさんは主に「バランスシート不況」について、勝間さんはベストセラー「銀行にお金は預けるな」の内容に基づいて講演をされていました。

バランスシート不況」については、リチャード・クーさんの本で読んでいたので、内容は知っていましたが、講演で実際に聞くと、知っている内容でもより理解が深まるものだと実感しました。と同時に「バランスシート不況」について疑問点も数点出てきたので、今回からは「バランスシート不況」というカテゴリーを設けて、以後このことと日本経済の不況の原因についても考えて行きたいと思います。

クー理論によるバランスシート不況の特徴とは以下のようなものです。

1.資産価格のバブルが弾けると、借金が資産を上回り、債務超過のバランスシートを持つ民間部門が数多く生まれ、バランスシート不況が発生する。
2.民間部門は、バランスシートを修復するために、利益最大化から債務の最小化へと行動の優先順位を変える。
3.民間がレバレッジの圧縮を始めると、借り手不足のために、たとえ金利がゼロになっても、新たに生まれた貯蓄と返済された借金が銀行システムに入ったまま出られなくなる。すると、これら貯蓄分と借金返済分の合計が、経済の所得循環からもれ出ることとなる。
4.このような所得循環の漏出が引き起こすデフレギャップは、経済を縮小均衡へと追い込み、それは民間が新たな貯蓄が出来なくなるほどに困窮するまで続く(これを恐慌という)。
5.この種の不況においては、民間のバランスシート修復が終わるまで、経済が自立成長過程にもどることはない。

そして1990年台以降日本は上記のバランスシート不況に陥ったため、長期の停滞を余儀なくされ、今回の世界金融危機によりアメリカをはじめとする多くの国もかつての日本のようにバランスシート不況に陥っているというのが、リチャードクーさんの理論です。

このバランスシート不況に対する対応策は「財政政策」を行うことだそうです。リフレ派が提唱している金融政策の有効性や竹中氏が行った構造改革は、バランスシート不況には無効であり、唯一効果があるのが「財政政策」というのです。財政政策には「公共投資」と「減税」の二つがありますが、バランスシート不況に有効なのは、前者の「公共投資」であるとクー氏は述べていました。そして、その「公共投資」の内容は必ずしも効率的なものでなくてもよく、穴を掘ったり、無駄な道路を作ることでいいと講演ではおっしゃっていました。

では、なぜ今まで上記のような無駄な公共事業は批判されていたのでしょうか。その理由は二つあります。
ひとつ目は従来の経済学には「バランスシート不況」という概念はなく、上記で書いた説明は経済学の教科書にはどこにも書いていないから、実際は財政政策は有効にも関わらず、財政政策が無効だと思われているということです、
次に二つ目の理由についてです。日本は1990年以降「失われた15年」を経験し、その間はほぼゼロ成長でしたが「公共投資を行ったのにゼロ成長だった」という暗黙の認識があります。しかし実際は「公共投資をしていたおかげでゼロ成長にとどまることが出来たのであり、もし公共投資をしなければ、日本経済はもっと悪化していたはずだ」ということです。

よって、今の世界不況の根本的な原因はバランスシート不況に陥っているということであり、その処方箋としては、「バランスシート不況を理解すること」と「政府が公共投資を実施しお金を使う」ということが挙げられるというのが、今回のリチャードクーさんの講演のサマリーとなります。

以下、参考文献です。

お金は銀行に預けるな   金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)

お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)

P.S勝間さんの講演は別の機会にご紹介いたします。