日本経済の不況の原因は何か11〜為替市場の謎〜

前回の続きで「短期間においては、『カバーなし金利裁定条件』は成り立つのか」についてです(長期については前回述べました)。このことが成り立てば、金利の低い通貨で資金を調達し、高金利の通貨で運用すれば、「インカムゲイン」に加え、為替差益である「キャピタルゲイン」も得られることとなります。す縄地、円キャリートレードで儲けることが短期間には可能になるということです!
ここで、再び前回ご紹介した慶応大竹森先生の「世界経済の謎」より引用です。

驚くべきことだが、過去に行われた実証研究のどれひとつとして、10%の金利差がある場合に、金利がより高い国の通貨が、平均して10%以上減価することを示したものはにない。つまり、10%の金利差がある場合、減価の率は5%であることも、2%であることもあっても、決して10%以上にはならなかったのである。そればかりではない、フルート(1990)*1によれば、過去に行われた75の実証研究で得られた数値を平均すると、金利がより高い国の通貨は8.8%増価する(減価ではない!)。
この過去の実績から考えれば、10%の金利差をねらって、円建てで借りて、ドル建てで運用した投資家は、ドルの減価によって金利差からの儲けをふいにするどころか、8.8%のドルの増価によって、金利差の儲けをさらに増幅できるのである。

上記の赤字の箇所はまさに「円キャリートレード」によって儲けを得ることが出来る可能性があることを示していることに他なりません。
しかしながら、上記の話はこれで終わりではありません。続きがあります。再び「世界経済の謎」より引用です。

1980年のはじめから1985年のはじめにかけて、アメリカの金利は、主要先進国のいずれの国と比べても高かった。(中略)高い金利を狙ってアメリカに資本を移動させたとすると、ドルの減価によって金利差をふいにするどころか、「高い金利」と「ドルの増価」という二重取りができたのである。

(中略)1980年から1985年までは、日本からアメリカに対して証券投資を行うことは、金利差の点から見ても、ドルの増価という点からも見ても、大変有利だったのだが、その後、1985年から89年にかけては、ドルの価値が今度は1ドル=250円台から1ドル=120台へと半減して、この期間にアメリカに投資した日本の生命保険会社などは、1兆円を超える巨額の損失を被ったのである。

20年前以上においても、円キャリートレードが行われたですのが、今回のリーマンショック以後の急激な円高により、円キャリートレードで儲けた利益が一気に吹っ飛んだように、当時も同様に急激な円高(プラザ合意の影響が非常に大きいですが)のせいで、「金利差」と「ドルの増価」でも受けるどころか「大幅なドルの減価」により、円キャリートレードを行っていた多くの機関投資家は損を出してしまったのです。

さて、最初の質問である「短期間においては、『カバーなし金利裁定条件』は成り立つのか」について考えると、以下のことがわかりました。
すなわち、短期的には「カバーなし金利裁定条件」は成り立つどころか、金利差によるインカムゲインと為替益によるキャピタルゲインで、二重の儲けを得ることができる。しかしながら、長期的にはみると、カバー付金利裁定条件が示すように「金利が高い通貨は将来減価すること」となり、為替損により金利差で儲けることが難しくなる。それどころか、場合によっては、急激な減価により為替損により大損する恐れさえもある。

1、2年前にFXやグロソブで一時的に儲けた多くの人が、結局はキャピタルロスにより損失を被っているという事実を考えれば、上記のことはある程度普遍的な出来事といえるかもしれません。

*1:Froot,Kenneth A.(1990)"Short Rates and Expected Asset Returns"NBER Woking Paper,#3247,January