バランスシート不況を考える2〜日本における財政政策は効果があったのか〜

前回では、リチャードクー氏が提唱しているバランスシート不況について説明しました。クー氏は、今の世界経済不況に対して1つだけ望みがあると講演で述べていました。それはまさしく日本が10年前にバランスシート不況に陥っていたこと及びその解決策を提示したということです。では、その解決策とはいったいなんだったのでしょうか。それは金融政策でもなく、構造改革でもなく、為替介入でもなく、「財政政策」です。政府が公共投資を行ったおかげで、日本経済はバランスシート不況から脱却出来たというのです。以下、「日本経済を襲う二つの波」の『バランスシート不況対策は人類史上最も成功した日本に学べ』の節より引用です。

日本もバブルが崩壊してバランスシート不況に陥ると、政府は財政政策で景気を下支えしてきた。日本では商業用不動産がピークから全国平均で87%も下がり、企業はGDP比で6%にもなる年間30兆円の借金返済に回ったにもかかわらず、これらの要因から発生したデフレ圧力を政府が財政出動で中和したため、日本のGDPは図21にあるように名目値でも実績値でもずっとバブルのピーク時を上回った。この間、バブル崩壊で国民の富が株と土地だけで1500兆円も失われたことを考えると、今回の日本の財政政策は人類史上最も成功した経済政策の1つと言えよう。

バブルがはじけ、不動産も株価も下落し、1500兆円の富が失われたにもかかわらず、名目・実質GDPともに、バブル崩壊後もバブル時のピークを常に上回った理由は、政府が財政政策を行ったからであり、このことをして人類史上最も成功した経済政策であるクー氏は述べています。
では、なぜ日本の不況は15年にも及ぶ長いものとなったのでしょうか。財政政策が効果的ならば、もっと早くに日本経済は回復していたはずです。それに対しても、クー氏は回答を示しています。

実際に公共事業を拡大すると、景気がよくなった。そして景気が良くなると、財政赤字を心配してすぐ政府支出をカットしたが、そうなると再び景気が悪化した。慌てて次の公共事業で景気をよくしたが、それが確認出来るとまた財政赤字を心配して支出をカット。またそこから景気が悪化して再び公共事業を行い、財政赤字を心配して、また支出をカットという政策を10数年も繰り返してきた。

つまり、継続的に公共事業を行わなかったため、日本の不況はずるずると長引いてしまったということです。ちなみに今から6年前の2003年の春、日経平均が8000円を割った頃、当時人気絶頂で当時野村のエコノミストだった植草一秀氏の講演に行きましたが、そのときもほぼ似たようなことを言っていました。

この日本に経験をアメリカに適応すると、アメリカにはシームレスな3年から5年の公共事業中心、政府支出中心の景気対策が必要とクー氏は述べています。

以上、クー氏が述べる世界経済不況脱却のための望みとしての日本の財政政策の経験についてざっとレビューいたしました。