日本経済の不況の原因は何か16〜円高の原因は円キャリートレードの巻き戻し?〜

ここ最近はずっと為替の話を書いてきました。具体的には、円安バブルが起こった経緯、円キャリートレードの仕組み、カバー付き及びなし金利裁定条件、為替はどのように変動するのか、為替の動きを理論で説明できるのか、といったことについてです。念のためですが、これらの説明はすべて「円安バブル崩壊」について述べるためです。

日本経済不況の原因の1つとして円安バブルの崩壊を挙げていますが、このテーマもいよいよ佳境に差し迫ってきました。

では、なぜ円安バブルが弾けて急激な円高になったのでしょうか。急激な円高が起こった理由としては「円キャリートレードの巻き戻し」というのが通説です。円キャリートレードの巻き戻しとは、金利の低い円で資金を調達し、高金利の通貨へ投資していた円キャリートレードのポジションを解消し、資金を引き上げ、円で借り入れた資金を返済するというものです。新聞や雑誌、報道では「円キャリトレードの巻き戻しにより円高になった」との解説がされることが多いです。例えば、ダイヤモンドオンラインのサイトでは次のように書かれています。

 今年3月、いわゆる円キャリートレードの巻き戻しで円は一時95円まで買い進まれた。長く低金利が続いている円に投機マネーが群がり、円を借りては投機を繰り返し、世界中にバブルを積み上げてきた錬金術の一つが円キャリートレードだった。

 3月の円高で円キャリートレードのポジションは急減し、マーケットへの影響は限定的と思われてきた。しかし、今回再びキャリートレードの巻き戻しがドルからユーロに軸足を移し、ユーロバブルの終焉に向かっている。

 もちろん、キャリートレードだけではなく、単純な外貨建て投資信託の解約による外貨売りや、実需によるヘッジ売りが相当量あろうと思われるが、今回のファンダメンタルズ無視の円買いにはそうとうなキャリートレードの巻き戻しが続いていると思われる。

上記のサイトによると、円高になった理由は円キャリートレードの巻き戻しということです。また日本銀行「金融市場レポート」にも円キャリートレードの巻き戻しがあったことについて書かれています。以下、引用です。

世界的な金融システム不安の高まりや景況感の急速な悪化を背景に、市場参加者のリスク回避的な動きが強まる中、外国為替市場は変動の激しい相場展開となった。
2008 年夏以降年末にかけて、市場流動性が低下し、ドルやユーロが乱高下する一方、円は大幅に増価した。世界的な株価の下落やボラティリティの急上昇を背景に、投資家のリスク許容度が低下したところに、内外金利差の縮小も加わり、キャリートレードのポジションが巻き戻されたことなどが、円の急伸につながった。

他方、円高は円キャリートレードの巻き戻しよるということに対して懐疑的な意見も見られます。霞ヶ関埋蔵金で一躍有名になった高橋洋一先生のの「この金融政策が日本経済を救う」より引用です。

円高・株安を、日本の低金利が生んだ円キャリートレードの巻き戻しだ、という方がいます。しかし、まず指摘しておきたいのは、円キャリーについて、誰も真実や本当の数字は知らないということです。(中略)円キャリーの資金についてはOECDの400兆円という調査から、IMFの120兆円という調査まであります。
(中略)もし、400兆円もの円キャリーがあれば、日本の損失は100兆円以上あるはずです。しかし、いまのところ、今回の金融危機での世界全体の損失は130兆円であり、日本の損失はその1割もありません。ですから、世界経済がバブルになるほどの多くの資金を円キャリーが供給したとうい説は、この点から疑問です。
 いずれにしても、確かに円キャリーの巻き戻しもあったでしょうが、それが果たして為替相場に影響するくらいあったかどうかは、誰もきちんと数字で説明していないのです。

すなわち、円キャリートレードの巻き戻しがあったであろうが、厳密にはどれほど為替に影響があったかはわからないということです。

公式な統計はないので、実体は分かりませんが、少なくとも「円キャリートレードの巻き戻し」が円高に寄与した可能性は高いと考えられます。

ということで、円安バブルの崩壊の引き金となった急激な円高は円キャリートレードの巻き戻しであった可能性が高いということが分かりました。

<参考文献>

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)