読書日記1『伊藤真・岩瀬大輔「超凡思考」』〜先が見えない世の中だからこそ自分の軸が大切〜

今回から新たに「読書日記」のカテゴリーを設けました。通常の経済のコンテクストではまず紹介することができないけれど、私が感銘を受けた、また非常に示唆富んだ本だと思う1冊をご紹介したいと思います。

第一回目は司法試験のカリスマ伊藤真さんと「ハーバードMBA留学記」及びライフネットで有名な岩瀬大輔さんとの共著「超凡思考」をご紹介したいと思います。

超凡思考

超凡思考

実はこの二人は伊藤塾時代の先生と教え子だそうです。さて、タイトルになっている「超凡」とは何でしょうか。

ちょう-ぼん【超凡】
普通の程度をはるかに超えてすぐれていること(さま)。非凡。早道・抜け道を探すことなく、とことん自分と向き合えば、「平凡」はやがて「非凡」に変わる。道は必ず開ける。

平凡から上記のような非凡に変わるための思考回路を説明しているのが本書です。
タイトルを見れば、よくありがちなビジネス書・自己啓発本のようで、ぱっと立ち読みしただけでは、書いている内容もどこかで読んだことがあるような印象を受けます。確かに個々のワードだけを抜き出してみると、「他人と比較しない」「強みをとことん強くする」「ワンランク上に目標を設定する」「書き出して視覚化する」など、これまでのビジネス本に書いてあるようなことがたくさん書かれています。

しかし、本書の凄さはそこにはありません。この本を文脈を捉えながら読んでいくと、一言一言に重みがあるのです。正直読んでいて泣きそうにさえなりました。ビジネス本を読んでいて心を揺さぶられたのは、本当に久しぶりです。

では、なぜこのように私は心を揺さぶられたのでしょうか。理由は二つ考えられます。
一つ目は著者が二人いるからだと思います。本書では、岩瀬さんと伊藤さんがそれぞれ1章ずつ交代して、それぞれ設定したテーマについて書くという構成がとられています。例えば、1章は「岩瀬式目標設定」、2章は「伊藤式時間塾」というようにです。そして、各章の最後には、その章を担当していない方のコメントが寄せられています。また最後の5章では二人の対談がまとめられています。

どちらかといえば、岩瀬さんはすべてを包み込むようような広い心、視野で落ち着いた雰囲気で文章を書いていて、他方、伊藤さんはライブさながらの熱い想いがひしひしと伝わってくる感じで文章を書いています。ですが、この二人には共通した想いとして「自分の信じる道を進もう」という土台があります。そして、対照的な文章表現でありながら、根底には同じ強い信念があるので、交互に章が書かれる事で、お互いの文章がより引き立つこととなるのです。よって、それぞれの伝えたいことが、時には重複した形で、また時には逆説的により明確に強調されて伝わってくることとなります。

二つ目は、潜在的にどこか不安に感じていたことを二人がズバリと指摘し、そのことがまさに図星だったからだと思います。すなわち、今の自分の問題意識と本書でテーマとしていることが合致していたからだと思います。例えば、「自分のありのままの姿を正直に認める、自分の苦手分野や誤りを認識して対策する」「『やれば出来るけどやらない』のではなくて、実際に『やる』ことです。」などです。

いろいろ書きましたが、私が特に感銘を受けたのは岩瀬さんの文章です。岩瀬さんの本はすでに「ハーバードMBA留学期」で読んでいましたし、岩瀬さんとは実際に会社説明会(らしきもの)でお会いしたことがあるので、本書を読む前からなんとなくイメージは出来ていました。

去年お会いしたときには、イメージとしては「非常に落ち着いてたんたんとしている」という感じでした。例えば、同じく旬の勝間さんの場合は、アグレッシブさがテレビや講演、文章からも伝わってくる感じですが、岩瀬さんはそこまでアグレッシブな感じを受けず、むしろ落ち着いて、どこか達観しているような感じさえ受けました。本書でも同様な感じで、凄い広い視野でたんたんと文章を書いている印象を受けました。伊藤さんも岩瀬さんのことを「学生時代、際立っていたのは、世界観の大きさ」と最初に書いていました。

そして、この世界観の大きさが、心にどしんと響いてくるのです。今まで何回も聞いたことがあるようなフレーズが出ては来るのですが、岩瀬さんが書くと非常に新鮮でまるで初めてそのフレーズに出会ったかのような錯覚にさえ陥りました。この文章の深さの秘密は何でしょうか。恐らく今まで経験したことを、本当にありのまま、自分の言葉で表現しているからだと思います。そこには、開成・東大・司法試験合格・ハーバードMBAという超エリート街道まっしぐらにもかかわらず、そのようなエリートにありがちな傲慢さはまったく見えません。事実、以下のようなこともさらけ出して書いています。

自分が社会でどんな役割を果たすべきか、じぶんらしく生きるとはどういう生き方か、そんな問題意識を抱く以前に、僕はブランドや知名度を手がかりに人生を決めていました。
 もしかすると、いま、会社を興すことを通じて、僕は初めて本当に、自分らしく、自分のものさしで生きることに自信がもてたのではないかと思います。

本当に自分の軸があるからこそ、言えることだと思います。またこういう文章を読むと「自分で考えて生きているのか」ということを本当に考えさせられます。

本書はビジネス本によく書かれている仕事術やテクニカルなことももちろん書かれていますが、本書を読む意義は、それらのツールを媒介として二人が伝えたいことを心で感じることだと思います。

本書が心に響く理由は、伊藤さんの言葉でいうならば、「ロゴスとパトス」、岩瀬さんの言葉でいうならば「ロジックと共鳴/共感」をバランスよく書いているからだと思います。私もお二人のように、バランスよく「Coolな経済理論とWarmな金融実務」を解説していけたらと思います(笑)

お薦めの一冊です。