なぜリーマンは救済されずに破綻したのか?3〜ポールソンルールについて考える〜

前回の続きで、「リーマンは救済されなかったのか」についての議論を考えたいと思います。今回は二つ目の仮説として慶応大竹森先生の議論を御紹介いたします。

第一回で書いたようにベア、フレディマックファニーメイAIGが救済され、リーマンが救済されなかった不可解な決断として、竹森先生は一番納得が行くのは前FRB議長グリーンスパンのインタビューだといっています。

以下、「日経経済教室セレクション」より引用です。

ベアースターンズ救済を契機に、市場では資産規模が同等程度以上の金融機関は必ず救済されるという期待が形成された。だがどこの政府であろうと、資産規模を基準にこれ以上の金融機関はすべて救済するといった方針はとりようがない。だから米政府は救済についての別の基準を提示しようとしている。

では、別の基準とはどんな基準なのでしょうか。ここで竹森先生は「タイタニックルール」を参考にしています。
タイタニックルール」とは、タイタニック遭難事件において、脱出救命ボートの定員数が全乗客数の半分しかないときに、タイタニック号が決めたボートに乗せるルールです。そのルールとは、一等乗客、それも女性と子供を優先して救命ボートに乗せるというものです。

では、ポールソン元財務長官はどのような順位で、金融機関を救命ボートに乗せるつもりだったのでしょうか。竹森先生は以下の順番を考えています。

  1. 住宅ローンや年金など国民に影響の大きい事業
  2. 破綻した場合に金融システムへの影響が大きいもの
  3. 資金繰りが急激に悪化したケース


しかしながらポールソンルールには、タイタニックルールほどの明確な基準はないという欠陥があると竹森先生は指摘しています。つまり、ベア、ファニーメイフレディマックAIGはよくてリーマンはダメという峻別には明らかな一貫性は見出しがたいということです。またポールソンルールでは、優先搭乗権があるのかどうか分からないので、経営に不安がある金融機関は疑心暗鬼に陥り、このことが市場全体に広まる可能性があります。市場が混乱しているときには、最悪の展開です。

AIGが救済されたときに、逆に株価が下がったのは、上記のような心理が働いたからだと予想されます。以上、不明確なポールソンルールについてでした。では、ポールソンルール以外では、どのような理由でリーマンは救済されず破綻することとなったのでしょうか。続きは次回です。