よいと投機と悪い投機
サブプライムショックの原因として「行き過ぎた投機」や「投資ではなく、投機だった」という批判がみられます。投機という言葉には非常にネガティブな側面がある一方で、使われ方としては得てしてあいまいです。
では、投機とはいったい何なのか。そしてその役割は何なのでしょうか。ここで投機とは「将来に関する自分の判断が正しいということに掛けるリスクテイク」と定義しましょう。
投機の役割としてはシカゴ学派の総帥でマネタリストの始祖、そしてノーベル経済学者であるフリードマンの議論が有名です。フリードマンは「成功した投機はよい投機、失敗した投機は悪い投機」と述べています。この言葉だけをみれば、哲学的な議論になりそうで、わけがわかりませんので、以下解説していきたいと思います。
例えば株が将来値上がりすると投機家が予想したら、値上がり前に買っておくことになります。その判断が正しくて実際に価格が値上がりしたら、そこで売ることになります。するとこの行為は、価格変動を和らげるような役割を果たしていることになるわけです。この行為は、値段が低いときに買って需要を増やし、値上がりしたときには売って供給を増やしますので、投機が成功すると、価格変動を和らげるという社会的にも望ましい効果を果たしているというのです。
では、逆に投機家の判断が間違って、値上がりすると思っていたところ、実際に値下がりしてしまった場合には、どうなるのでしょうか。この場合は、価格変動を和らげるどころか、むしろ価格変動を増幅させることになってしまいます。そうなると、社会的にも望ましくなく、迷惑をかけることになります。その場合には、その投機家は、大損するという形でペナルティーを科されます。失敗したら、大損するという制裁を受けるのだから、当然投機には慎重になる。そこには、ある種の抑制が働くはずです。
そういう意味で、上記のような失敗する悪い投機はなくなり、よい投機の方が多くなり、投機は経済にとって望ましい面の方が強い。以上がフリードマンによる投機に関する古典的な議論です。自制心が働くから、世の中はほっておけばよい投機だけになるというのは、自由主義者のフリードマンらしい発想だと思います。
ただ、上記の議論には暗黙の了解で一つの仮定がなされているものと思われます。それは「すべて手金で投機を行っている」という仮定です。確かに手金で投機を行うなら、大損という制裁は自制心に結びつくと思います。ですが、他人のお金を借りて、レバレッジをかける投機はどうでしょうか?
全投資金額の2割ほどしか負担せず、残りの損失はすべて他人に押し付けとなると、大損というペナルティーは限定的です。そうなると悪い投機がよい投機を駆逐して増え続け、その結果レバレッジをかけて投機を行うというマーケットがレモンの市場と化してしまう可能性があります。特にノンリコースローンでは、担保以外は訴求されないので、その傾向が強くなってしまいます。
今回のサブプライム問題も、上記のようなことが起こってしまった可能性があると個人的には思っています。
参考文献
- 作者: 池尾和人,池田信夫
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2009/02/26
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