読書日記6『この金融政策が日本経済を救う』

本日は、昨今の金融危機を金融政策の切り口から分析をしている以下の本をご紹介致します。

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)

著者の高橋氏は、大蔵省(現財務省)出身で、内閣参事官を経て、現在は東洋大学の教授です。高橋氏は、2000年代前半に、プリンストン大学で客員研究員をしていて、その際には、クルーグマンバーナンキ、ウッドフォードといった世界トップレベルのマクロ経済学者達と日々議論していたのことです。また、バーナンキの論文を翻訳していることもあり、金融政策には詳しいです*1

前回ご紹介した榊原氏の「間違いだらけの経済政策」とは対照的に、本書ではタイトルの通り金融政策の有効性について書かれています。その他、インフレ、デフレ、中央銀行の役割、金融政策と株価や為替との関係などについても書かれていて、この1冊を読めば金融政策の基本的な仕組み・役割を押さえることが出来ます。

本書の主要な論点は以下の通りです。

  • 日本の景気後退の主たる原因は、サブプライム問題ではなく、2006年の金融引き締めである。
  • 金融緩和により、1〜2年後に効果があらわれ、3〜4年後には景気は上向きになっている可能性が高い。
  • 金融危機に対する対応は3つの手段しかない。

上記の3点からもわかるように、本書では金融政策の有効性について述べられており、また日本経済が悪化した理由は、金融政策の失敗によるものだとしています。

外資系金融マンが書いたサブプライム投資銀行崩壊に関する本は、内容の方向性としてはそれほど違いがないものが多いのですが、経済学者が書く不況対策の本は驚く程、分析の視点が異なってきます。

事実以前ご紹介した榊原氏の「間違いだらけの経済政策」では、「従来の経済政策は無効」「強い円高」を主張している一方、本書では「金融政策は有効」「円高は日本経済にとっては悪」としています。

どうしてここまで違いが出るのでしょうか。本書はよくも悪くもオーソドックス(というよりもリフレ派の考えに基づいた)な経済学に基づいて分析をしています。すなわち経済学に対するスタンスの違いが分析の違いを生み出しているといえます。

本書では金融政策の有効性について書かれていますが、では実際に金融政策は有効なのでしょうか。

金融政策は有効です。すくなくとも本書で書かれているモデルの中におきましては。他方、現実問題はというと、金融政策の効果を実証的にきちんと分析している論文はあまりないので、有効かどうかの判断は難しいと思います。(金融政策は経済全体に影響を及ぼすため、経済の動きが金融政策によるものなのか、別の影響なのかは、判断するのがかなり困難だからです。)

では、金融政策が現実問題として有効でないなら、本書を読む意味はないのでしょうか。むしろあると考えます。なぜならば、モデルから導き出されることを理解することで、現実経済との乖離の原因を知る手がかりになるからです。モデル上では金融政策は有効なはずなのに、現実経済では有効でない場合、何かしらの問題があるはずです。その問題を考える際の指針として、モデルを理解することは非常に意義があります。

経済学が有効かどうかは異常なケースでわかるんだよ。だから日本に興味がある。日本ほど異常な経済状況になっている国はないからね。」(P69)

2008年にノーベル経済学賞を受賞したクルーグマンの言葉です。最近何かと金融政策がニュースになっていますが、金融政策の基本*2を知るに際して読みやすい一冊です。

*1:

リフレと金融政策

リフレと金融政策

の翻訳もしています。

*2:金融政策には多様な理論があり、その中でも主にリフレ派の考え方が書かれています。また必ずしも最新の経済学の理論が紹介されているわけではないです。本書で不況の原因のほとんどが金融政策の失敗に起因するとしている点は、疑問が残りました。