読書日記7『15歳からのファイナンス入門』

本日は以下の1冊を御紹介します。

著者の慎さんは、マイクロファイナンスNPOであるLiving in Peaceの代表も務めてもいます。ご興味があれば、コミュニティに登録してみてください。私も登録していますが、マイクロファイナンスに関する様々な情報が送られてきます。

さて、以前「14歳からの世界金融危機」を御紹介したときに、「中学生に今回の金融危機を説明するのは至難の業」だと述べるとともに、「14歳からの〜」では見事に14歳でも理解できるように金融危機を説明していると書きました。翻って、今回御紹介する本は、抽象的で理解するのが難しいと言われるファイナンス理論を15歳からでも学べる内容になっています。

本書は日常に即した具体例が豊富で、挿絵が多く見やすく、抽象的な議論はほとんどないという点でこれまでのファイナンスの本とは一線を画しています。また本書のメッセージは極めてシンプルです。というのも、ファイナンスの原理原則として以下の3点にのみ絞って書かれているからです。

    1. リスクとリターンの関係
    2. リスク分散
    3. 現在価値と将来価値


1のリスクとリターンの関係では「バスケではなぜ2点と3点のシュートがあるのか」を、2のリスク分散では「桃太郎はなぜ犬、猿、キジを仲間にしたのか」を、そして3の現在価値と将来価値では「夏休みの宿題を先送りにしてしまうのはなぜか」を題材に、ファイナンスの原理原則をわかりやすく解説しています。

読んでみるとわかりますが、ファイナンスの原理原則をここまでわかりやすく、また日常に落とし込んで説明した本はおそらくないものと思われます。その他、ドストエフスキーゲーテ、中国の古典などの様々な場面を引用し、それらの場面にファイナンスの原理原則を当てはめて解説しています。またさらに発展し、株式会社の仕組みや政治の仕組み、保険の仕組みも上記の3つの原則から解説しています。そして、ファイナンスを学ぶことで「不確かさ」との付き合い方を学び、人生で何か挑戦するときに役立て欲しいと結びで書かれています。

私は本書を読むまで、経済学やファイナンスの理論は、大学に入ってから本格的に学ぶべきで、それ以前の中学や高校では基礎知識をきちんと勉強するべきだと考えていました。それは私自身、高校までの勉強をおろそかにしていたため、大学で経済学を学ぶ際に大いに苦労した経験があるからです。では、なぜ中学、高校の基礎知識が大事なのか。それは20世紀最高の経済学者の一人であるケインズの以下の言葉にも表れています。

経済学の研究のためには、非常に高度な天賦の才といったものは必要ない。経済学は哲学や自然科学に比べればはるかに易しい学問といえるだろう。にもかかわらず優れた経済学者は非常に稀にしか生まれない。このパラドックスを解く鍵は、経済学者がいくつかの全く異なる才能を合わせ持たなければならない、という所にある。彼は一人にして数学者であり、歴史家であり、政治家であり、哲学者でもなければならない。個々の問題を一般的な観点から考えなければならないし、また抽象と具体を同時に兼ね備えた考察を行わなければならない。未来のために、過去に照らし、現在を研究しなければならない。」


すなわち、経済学を学ぶ際には経済学だけではなく、あらゆる分野に精通する必要があるのです。中学、高校で習う国語、英語、数学、歴史、政治、物理などの科目は、経済学を学ぶ上での基礎知識として非常に重要です。そのため、個人的には勝手に経済学やファイナンスは敷居が高いものと考えていました。(別の言い方をすれば、あまりにやること多すぎるうえ、内容が抽象的なところも多く、数式も使うので、そりゃ人気がないなと思っていました。)

しかし、本書は経済学やファイナンスを学ぶ上での敷居の高さをまったく感じさせず、「15歳からのファイナンス」という内容で、タイトルの通り本当にわかりやすくファイナンスのエッセンスが説明されています。また、本書ではファイナンスは決して難解なお金儲け道具でもなく、一部の人だけが使いこなせる道具でもなく、皆が理解できる、そして使える原理原則であるとも書かれています。

「おわりに」で早稲田大野口悠紀雄先生への謝辞がかかれていますが、野口先生もベストセラーの「超勉強法」や「超「超」整理法」で、パラシュート勉強法というものを提唱しています。これは、いきなり結論から学び、後から理論を理解するという方法で、その方が全体的に理解できるので勉強が効率的になるという考えかたです。

金融や経済は複雑で難しいという考え方にとらわれず、パラシュート勉強法のように、とりあえずは15歳からでも、いわんや40歳からでも本書を読んで、ファイナンスのエッセンスを学び、そして興味がある周辺分野からでも、ファイナンス、経済学を学べば、ファイナンスや経済学だけでなく、関連する様々なことに興味もわいてくるはずです。本書の具体例でも様々な日常の引用があるように、ファイナンスや経済学の応用範囲は非常に広いからです。そして15歳の人は受験勉強の内容の必要性も感じるようになるでしょう。(書いていて思い出しましたが、野口先生がファイナンスの勉強を始めたのは50歳からだそうです。それでファイナンスの専門書まで書くのですから本当に頭が下がる思いです。)

さらに、人々がファイナンスを学ぶことで、わけのわからない金融商品に騙される人も少なくなれば、話は飛躍しますが、経済全体としても騙されることで発生するゆがみも解消されていくのではないでしょうか。

ファイナンスの原理原則を学ぶためだけではなく、生きるための原理原則を学ぶためにも是非読んでいただきたい1冊です。