銀座のコーヒーの価格はなぜ高いのか?

前回では、地価と景気の因果関係について述べました。関連で経済学の教科書によく出る例え話で、「銀座のコーヒー」も有名です。ここで質問です。

銀座のコーヒーはなぜ高いのでしょうか?

上記の質問に対し、「銀座の地価が高いから」と答えるのが一般的だと思います。しかしながら、経済学では銀座のコーヒーが高いのは銀座の地価が高いからであるという風には考えません。

では、なぜ銀座のコーヒーは高いのでしょうか。確かに経営者の立場からすると、都心の地価や店舗の賃料が高いから、その分をコーヒーの価格に反映させて、価格を高くしないと、地下や賃貸料に見合った収益を上げることが出来ず、経営が成り立たなくなります。

しかし、仮に経営者の事情でコーヒーの価格を高くしたとしても、それだけの価格を支払う客がいなければ、経営は成り立ちません。すなわち、銀座のコーヒーが高い理由は、「銀座では高いコーヒー代を支払う人がいる」という、需要要因に起因するところがあります。

ちなみに「土地の経済学」という今から20年前に出た本では「銀座のコーヒー」の例が使われていますが、2006年に発売された「まっとうな経済学(邦訳)」では、スタバのコーヒーが例に出されています。時代の進化を感じます。

では、銀座のコーヒーの値段の高さの水準はどのように決まるのでしょうか。コーヒー1杯の原価は、山奥であろうが銀座であろうが、それほど変わるものではありません。(今から8年ほど前、大学1年生のころ、某カフェでバイトをしていましたが、コーヒー1杯の原価は、確か42円(か21円、記憶が定かではありません・・・。)だった気がします。この原価は、コーヒーを1杯を無駄に注文したり、こぼしたときにコストとして計上した額です。)

仮に地代が同じならば、銀座の方が需要を見込めるので、みんな銀座でカフェを開こうとします。しかしながら、土地は希少性があり、また代替性がなく、供給が限られているので、皆が銀座でカフェを開こうとしたら、地代は上昇することとなります。具体的には以下の例を考えて見ます。

1.銀座でカフェを開く

  • コーヒー一杯     1000円
  • コーヒー一杯の原価  50円
  • 来店数        500人/日
  • 1日当たり粗利 (1000−50)×500=1425万円


2.人があまり来ないところでカフェを開く

  • コーヒー一杯     300円
  • コーヒー一杯の原価  50円
  • 来店数        200人/日
  • 1日当たり粗利 (300−50)×200=150万円


銀座でカフェを開いたときの粗利は1425万円で、②の場合は、粗利は150万円となります。明らかに①の方が儲かります。この両者の粗利の差が、基本的には賃料にはねかえって、最終的には利潤の差をなくすことになります。このことは、初級ミクロ経済学で学ぶ「利潤ゼロ」のことに他なりません。ここでいう利潤ゼロとは、利益がゼロということではありません。他の産業と比べたときに超過利潤を得ることが出来ないということです。なぜなら、他の産業が儲かっている場合、みんながその産業に参入し、競争が激化するので、長期的には他の産業と似たような利益率になってしまうからです。(経済学では機会費用を用いることで利潤ゼロを説明しています。)

だから、たとえ銀座の居酒屋で一杯900円のウーロン茶を注文し、「原価を考えるとこの店はぼろ儲けだな」と思ったとしても、確かに粗利では儲かっていますが、銀座でウーロン茶を売るために相当の地代を支払っているので、最終的な儲け自体は、他の居酒屋とそれほど変わらなくなるのです。飲食店は多くの場合、どこで店を出そうと営業利益率は数パーセントになります。

ところで、今をときめく勝間和代氏も「利益の方程式」でIT業界で利益が上がらなくなった理由を以下のように述べています。

メインフレームからオープンシステムになって参入者が増え、多くのシステム会社が同じものを作れるようになってから利益は限りなく0になってしまった。私達は経済学で、参入障壁がない市場においては需給が均衡するまで価格が下がり続け、多くの供給者は超過利潤がなくなってしまう、ということを習いました。コンピューター業界ではまさしく、それが起きたのです。

では、実際問題まったく超過利潤をあげることは出来ないのでしょうか。そんなことはありません。実際に多くに企業が利益を出しているという現状があります。勝間氏の本では利益の源泉を以下のように述べています。

では、なぜ、世の中の企業がまだそれなりに利益を出しているのか、ということについて疑問も出ると思います。実は、多くの企業が利益を出せているのは、「他社が追いつくまでの時間の余裕を生かしているだけ」なのです。これを「時間のアービトラージ(裁定)」と呼びます。

カフェ業界を考えると1990年代にスタバが日本に上陸して、大ヒットしました。その後、似たようなカフェが多数参入し、現在では完全に飽和状態となってしまいました。いまからカフェ業界に参入したとしても、大きな利益は見込めないでしょう。結局のところ、市場へ参入するタイミングが非常に重要だということでしょうか。

話は銀座のコーヒーに戻りますが、たとえ銀座でカフェを始め高いコーヒーを売ったとしても、地代が高く、利益はそれほど見込めないということになります。

参考文献

土地の経済学

土地の経済学

まっとうな経済学

まっとうな経済学

勝間式「利益の方程式」 ─商売は粉もの屋に学べ!─

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さくっと読めてしっかりわかる「不動産証券化」

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