読書日記8『世界経済はこう変わる』

本日は以下の1冊をご紹介したいと思います。

世界経済はこう変わる (光文社新書)

世界経済はこう変わる (光文社新書)


強欲資本主義論の神谷氏とキャンサーキャピタリズム論の慶応大小幡先生という2008年度のベストセラーの著者同士が、今後の世界経済について対談している1冊です。内容はタイトルのとおり「今後の世界経済の行方」について議論しています。決して100年に一度の金融危機の原因を分析しているものではないので、読むに当たっては「強欲資本主義」と「すべての経済はバブルに通じる」を予め読んで、それらの知識を前提として読んだほうが理解が進むかもしれません。

内容に関しては、あまりに期待が大きかったせいか、すこし想像していたのと違い、いい意味でも悪い意味でも裏切られた感じです。

サブプライムを発端にした世界不況は以下の3つの段階に分けることが出来ます。

  • 第1段階2007年8月のパリバショック これ以降金融市場が混乱へ
  • 第2段階2008年9月のリーマンショック あらゆる資産が暴落し、金融市場が機能不全へ
  • 第3段階実体経済に危機が移転。現在進行中の不況。


そして、本書ではさらにもう一段進んで、このままでは第4段階があると議論しています。その第4段階とは政府が財政破綻し、通貨が価値を失う段階です。

対談者二人の共通の認識は「今回の金融危機で機能不全となった金融システムを元の通り修復することは意味がない」という点です。そういう意味で財政政策にしろ、金融政策にしろ既存の経済システムを修復しようとしているので、効果がないどころかむしろ悪だとし、そうした結果、下手をすれば財政が破綻し、通貨の価値が失う可能性さえあると指摘しています。

既存の経済システムを維持・修復するということは、二人にとっては「強欲資本主義」及び「キャンサーキャピタリズム」という今回の危機で弱点があらわになった経済システムを維持しようとしている愚行に他ならないのです。今回の不況から脱するためには、むしろ、まったく違う組織、違う人間、違うスキームに対して、お金をいれる必要があるという考えに二人は立っています。

では、二人が考えるポスト強欲資本主義、ポストキャンサーキャピタリズムで重要になってくるのは何でしょうか。ここが本書の読みどころであり、一番賛否が分かれる箇所です。新しい資本主義を考える際に、二人が重要視していることは、「感性」です。より具体的には、宗教や思想、哲学を今まで以上に議論する必要があるとのことです。また新しい経済体制を構築する大前提として、人間の尊厳こそ社会の中心に位置づけるという価値観が必要になってくると述べています。このことの具体例としてイタリア中世で起こったルネサンスや日本での質素倹約の心を挙げています。

では、このことを前提とし、新たな経済体制を構築するには、具体的にはどうすればよいのでしょうか。それは自分の頭で考えなければならない。ヒントとなるのは、感性や哲学。だから古典や歴史から学びましょう、ということになります。

以下では、私が気になった箇所を引用いたします。(客観的に重要な箇所ではなく、あくまで私が気になった・興味を持った箇所です。)

・僕は最近、公私混同という言葉がキーワードだと思っています。公私混同は悪くない、ということです。むしろ、公私一緒にしないと信用できない、それが本当だと思うのです。(小幡)

アメリカでは私が確立しているから、その部分に逃げ込んでしまえば、誰からも責められない。(小幡)

有限責任とはイコール「無責任経営」のことです。(神谷)

・個人的に、最終的にはアジアが世界経済復活のきっかけになると思っています。なぜなら、新興国の中でアジアだけが、自力で成長してきたからです。(小幡)

・今、大規模な財政出動をやるのは、ニューディールをはるかに上回る愚策で、最悪のシナリオでは、それはアメリカ経済社会破綻への道なのです。(小幡)

・金融機関などが、そろって証券化された商品を買ったものの、担保は全部アメリカにあるわけですから、ヨーロッパの人はみんな証券だけ持っていて、押さえるべき担保は自分の国に存在しません。まだアメリカ人は押さえる担保がそこにあるだけマシということです。(神谷)

・「企業を育てる」「企業の面倒を見る」という風土は、アメリカの投資銀行からもなくなりました。(神谷)

・個々の人間は魅力的なのに、それが集まって大きな組織、企業になると、うまく機能しなくなってしまう。ということなんでしょう。そうなる理由の一つは、組織の論理に埋没して自分の頭の中で考えなくなってしまうからですよ。それはまた個人と組織との双方に責任があることですね。(神谷)

・現在の日本が停滞している理由は何か、ということを考えると、僕は「デザイナー不足」だと思うんですね。(小幡)

・お金で買えるものは実は大して価値がない。本当に価値があるものはお金で買えないんです。(神谷)

・バブルは確かに大きな弊害である。しかし、バブルがないと生まれなかったものあるという議論は常にあるんです。(小幡)

・私に言わせれば、GDP自体が幻想なんですよ。(神谷)

・日本人が古来持っていた価値観、人生哲学がなかったならば、戦後の急激な復興はありえなかったと思います。(神谷)