日本経済の不況の原因は何か21〜地価が上昇すれば、景気は回復するのか?〜

「今は地価が下落傾向にあるが、地価が上昇しさえすれば景気が回復するはずだ。」


かすかな記憶ですが「ナニワ金融道」で、バブルが崩壊した後の街中の中小企業の経営者の会話でも上記のようなものがあったと記憶しています。

今まで何度か地価に関するニュースをご紹介してきましたが、地価が景気に影響を与えていることは間違いありません。また日本経済の不況の原因として私も「不動産バブルの崩壊」という仮説を挙げています。

では、地価が上昇すれば、景気は回復するのでしょうか。現在の状況に当てはめてみれば、地価は2007年頃にピークを過ぎ、2008年以降地価は下落傾向にあるので、今後、景気は悪くなっていくのでしょうか。上記のことを考えるため、まずは地価はどのように決まるかを考えましょう。ここで地価とはより具体的に不動産価格とします。

不動産の価格の求め方には、1積算価格法、2取引事例比較法、3収益還元法の三つがありますが、現在の不動産取引の多くは、3の収益還元法が使われています。(キャップレートをはじくさいには、2取引事例比較法も使われ、また費用の計算をするときは1積算価格法も使われるので、厳密には上記3つの手法がすべて使われているといったほうが適切かもしれません。)

よって、不動産価格は当該不動産が生み出す収益によって決まるといえます。具体的には不動産から生み出される賃貸料や駐車代です。したがって、地価(不動産価格)が上がるとすれば、賃貸料が上昇するからになります。では、どうすれば賃貸料(不動産収入)は上昇するのか。景気がよくなると、坪単価の賃料が高まることとなります。

最初の問題提起に戻りますが、景気が回復するから地価が上昇するのであって、地価が上昇するから景気が回復するということではないことがわかりました。

最近「アメリカの地価はどこまで下落するのか」ということがよく議論されていますが、アメリカの地価は結局のところ経済のファンダメンタルズで長期的には決まります。地価の下落がどこまで続くか予測するのは非常に困難ですが、ひとつだけいえることは、「地価は景気の状態の結果である」ということです。もちろん、地価の下落により資産効果が働き、景気がさらに悪化するということは十分考えられますし、実際にリチャードクー氏が指摘しているような「バランスシート不況」の存在もあると思います。また地価の下落が景気の悪化を促進し、そのことが地価の下落をさらに促進しスパイラルのように下落基調が続くということもありえます。

しかしながら、「ではこの状態から回復するにはどうすればよいのか?」と考えるならば、その答えは「地価が回復する」ことではなく、「景気のファンダメンタルズが回復し、地価が上昇する」ということになります。

経済の事象を捉えるときには、因果関係を理解することが重要です。

参考文献

野口悠紀雄の「超」経済脳で考える

野口悠紀雄の「超」経済脳で考える