邦銀の収益体質を考える

6月9日の日経新聞の経済教室は、マッキンゼーの本田圭子さんによる寄稿で、内容は邦銀の収益改善について書かれています。本田さんといえば、バリュエーションのバイブルである「企業価値評価」を翻訳していることでも有名です。

企業価値評価 第4版 【上】

企業価値評価 第4版 【上】

経済教室のサマリーは以下の通りです。
まず、銀行の収益源は主に以下の3つに分けられます。

  1. 預金金利と貸出金利のスプレッド
  2. 金融商品・サービス提供による手数料
  3. 金融資産の保有・売買から得られる収益


2は市場の動きで変化する顧客ニーズの多寡により増減するので、銀行の常的な主たる収益源は1と3になります。

1に関しては、日本の銀行は欧米の銀行よりもスプレッドが薄く、収益が生まれにくい構造になっています。また3に関しては取引先の株式を保有していることで日経平均が下落している状況では収益減の圧迫になってしまいます。よって、銀行の収益源を上げるために適切な金利設定をする必要があり、貸出金利の引き上げも必要というのが本田さんの指摘です。

実は上記とほぼ同じ議論が10年前からされています。同じくマッキンゼー出身で現早稲田大大学院教授の川本裕子さんが2000年に書かれた以下の本でも同様の指摘がなされています。

銀行収益革命―なぜ日本の銀行は儲からないのか

銀行収益革命―なぜ日本の銀行は儲からないのか

では、本田さんが指摘するように、邦銀は収益力を上げるために金利を引き上げるべきなのでしょうか。確かに銀行の収益力向上は不可欠だと思いますが、私は邦銀が金利を引き上げることで、収益力を向上させることには必ずしも賛成の立場を取りません。

そもそも1990年代後半以降、不良債権処理に苦しんでいた邦銀が収益力を向上させるために取り組んだ主たることは、上記2の手数料ビジネスです。法人業務でいえばM&Aなどの仲介フィーを稼ぐビジネス、リテール業務でいえば投信の販売であったり、プライベートバンキングの強化です。このようなビジネスモデルの転換が迫られた理由は、伝統的な銀行業務である1が儲からなくなってきたからです。

1が儲からなくなったので、2を強化したはずなのに、スプレッドが薄いから1をもっと強化しろというのは、1が儲からなくなった根本的な原因の一つである不良債権問題から何も教訓を得ていないことになります。(なお、不良債権問題の背景にはメインバンク制や株式持合の存在があったことも大きいです。)

続きは次回です。