【読書日記9】これからの金融ルールがわかる本

本日は以下の1冊を御紹介いたします。

これからの「金融ルール」がわかる本 (PHPビジネス新書)

これからの「金融ルール」がわかる本 (PHPビジネス新書)


著者は「さくっと読めてしっかりわかる不動産証券化」の著者でもある永野良佑氏です。
さくっと読めてしっかりわかる「不動産証券化」

さくっと読めてしっかりわかる「不動産証券化」

金融アナリストという肩書き以外は、経歴はよくわからない著者ですが、わかりやすさと実務を把握して分析しているという点で、個人的には一押しです。

本書では、金融危機を作り出した理論を検証することで、今後の金融のあり方について考察しています。金融危機を作り出した理論としては、具体的にレバレッジ証券化、不動産金融、ヘッジファンド、格付け、自己資本比率規制の仕組みなどが詳しく解説されています。

その後、これらの金融理論が崩壊した後にはどのような金融秩序が生まれるのかを後半で考察しています。この点が本書の一番の要です。すなわち、「金融市場はいつ正常化するのか」や「金融機能はいつ回復するのか」に焦点を当てているのではなく、本書では「新しい金融ルールとはいったい何なのか」ということに対する考察を行っているのです。

今後の経済・金融のあり方について論じているという点では、以前御紹介した「世界経済はこう変わる」と同じタイプの金融危機に関する考察の本といえますが、「世界経済〜」は、経済の仕組みそのものが根本的に変わるという立場で論を展開しているのに対し、本書は経済の仕組みそのものというよりも、局所的に金融のルールが変わるというスタンスで議論を進めています。


本書での新たな金融ルールの主要な論点は以下の2点であらわすことができます。


上記2点はサブプライムリーマンショックからの反省ともいえるでしょう。ですが、個人的にはこの流れにそのまま行くとは思いません。なぜならば、レバレッジマネーを提供する金融機関が少なくなれば、レバレッジマネーを提供することで儲かる機会が出てくるとともに、投機マネーが市場に流れない状態で、リスクをとれば大きなリターンを得られる機会があるからです。

問題なのは、投機マネーが市場に流れ込みすぎて、リターンが小さくなっているにも関わらず、さらにマネーが市場に流れ込む状況といえます。このような状況は、慶大小幡先生が指摘しているような「キャンサーキャピタリズム」状態といえます。

ですが、レバレッジが小さくなり、投機マネーが市場に流れ込まなくなると、そこには、レバレッジをかけて、投資(投機?)を行うことで、大きなリターンを得られるチャンスが出てきます。そうなれば、レバレッジを提供する金融機関があらわれ、投資を行うファンドも出てくると思います。つい先日「ユニゾンキャピタル」が新たに投資を始めるというニュースもありました。

そういう意味では本書が予測しているような新たな金融ルールに、世の流れが一方的に進んで行くとは必ずしも限らないのではというのが私見です。もちろん、サブプライムショック前のような状況に戻るとも考えにくいので、今後の投資において、しばらくは「適度なレバレッジ」に方向が進むのが妥当という感じでしょうか。