【読書日記10】100年に一度のチャンスを掴め!

本日は以下の1冊をご紹介いたします。

100年に1度のチャンスを掴め! (PHPビジネス新書)

100年に1度のチャンスを掴め! (PHPビジネス新書)


著書はJPモルガンで「伝説のディーラー」といわれた藤巻健史さんです。 数ある金融危機に関する本の中でも、今後の経済について本書は極めて楽観的な予測をしています。以下の文章が藤巻さんのスタンスを明確にあらわしています。


サブプライムローン問題」とは、「金融資本主義の終わり」でも「悪魔が金儲け主義で劣悪商品を売りつけた結果」でも「デリバティブの問題」でも「米国経済の終わり」でもありません。金融商品の「ミスプライシング」から起きた技術的な問題に過ぎないと思うのです。


個人的に藤巻さんは大好きですし、藤巻さんの「藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義」は私にとってのバイブルですが、正直本書については読んだ当初はあまり共感できる箇所はありませんでした。「サブプライムショックの本質をミスプライシングの一言で片付けるのはあまりに乱暴ではないか」と読みながら感じていました。また、同時期に読んでいた「これからの『金融ルール』がわかる本」に比べると、ロジック的にも金融危機の原因に対する考察が甘く、後半は流し読み程度で済ましていました。

ですが、今改めて読むと、さすが伝説のディーラーと呼ばれるだけあってマーケットに対する嗅覚というか感性は、他のエコノミストや経済学者よりも頭一つ抜けています。経済危機の原因の分析は甘いと思いますが、マーケットの動向についてはやはり「餅は餅屋」というだけあって、今まで読んだ金融危機関連の本の中では一番示唆に富んでいます。本書の中でも興味深かった箇所を引用いたします。

今回の危機の元凶といわれた米国株の下落幅が35%なのだから、日本株の下落は10%ぐらいですんでいるのかな?と思いきや、日本株は一昨年の最高値(約1万8000円)から約50%も下げているのです。
(中略)一方、為替をみると、今や円が世界で一番強い。「通貨が強い」ということは、経済が強い証拠です。
(中略)株を基準に考えるなら「日本経済は最弱」であり、為替を基準に考えるならば「日本経済は最強」なのです。これは論理矛盾です。
(中略)私は今回の危機が「構造的な大問題」だとはどうしても思えないのです。
(中略)株式市場では日本は「経済最弱」という評価をされているのに、なぜ円が世界最強の通貨になってしまったのでしょうか?ひとつにはやはり「識者」の誤解が巷に満ち溢れたせいかと思います。
※時期的には、2009年2〜3月頃の話です。


言われてみると当たり前なのですが、冷静に株と為替の動きからマーケットによる日本経済の評価の矛盾を分析している点は、さすが伝説のディーラーといわれるだけあり、非常に興味深いものとなっています。(むろん円高になると日本株安になるという関係もありますが)

日本の株価がアメリカの株価よりも下落していることは、早稲田大の野口悠紀雄先生も指摘していましたが、その原因の解釈が異なっています。藤巻さんは、マーケットのミスプライシングと解釈している一方で、野口先生は「日本の輸出モデルの崩壊」と分析しています。詳細は昔ブログに書きましたので、参考にしてみてください。

「株式市場では日本は「経済最弱」という評価をされているのに、なぜ円が世界最強の通貨になってしまったのでしょうか?ひとつにはやはり「識者」の誤解が巷に満ち溢れたせいかと思います。」は今から約半年前に藤巻さんが指摘したことです。それでは、現在の株価、為替はどうなっているのでしょうか。

株価はバブル後最安値をつけた2009年3月10日の7,054円98銭から、半年も経たないうちに10,000円を超え約1.5倍にもなりました。為替は、今年最も円高だった時期が2009年1月で、その時は1ドル=約88円、現在は1ドル=96円前後の水準なので、年初に比べ約10%円安に触れています。

事後的にしか解釈することは出来ませんが、少なくとも藤巻さんが指摘していたように日本の株価と為替には論理矛盾が存在し、現在はそのことが解消されて来た感じでしょうか。

まとめです。藤巻さんが書いた本書はあくまで「ポートフォリオ的に読む」ということを意識する必要があると思います。 すなわち、本書一冊で金融危機の原因をわかったつもりになるのではなく、様々な金融危機の本を読み比べ、その中の1冊として本書を「マーケットからの分析の本」と位置づけすることで、本書の魅力が最大限に発揮されるものになるということです。

為替、株価、金利、石油価格の動向から今回の金融危機を分析しているという点で今回の金融危機を語る上ではずす事ができないお薦めの1冊です。

P.S
なお、ファンドマネージャーである木下晃伸さんも2009年3月頃、「大きな上昇相場がやってくる」と予測し、見事に的中させました。

巨大バブルがやって来る!~金融危機終息後の「モラトリアム相場」の読み方~

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