1ドルの行方を考える。

今から17年前、私が小学生の時、新聞のコラムにある1つのパラドックス的な話が載っていました。凄く不思議な話で、コラムには答えが書いていなく、当時は結局なぞかけの答えはわかりませんでした。

その話が2年ぐらい前に読んだ本に偶然出ていたので、ご紹介したいと思います。その文章を見た瞬間すぐに当時のことを思い出しました。ちょっとうれしかったです。話は以下です。

とあるホテルで会議を開いた3人の男がいた。料金30ドルを支払ってブースを借りた彼等が立ち去ってから、料金が実は25ドルで、取りすぎだったことが判明した。

ホテルのマネージャーはベルボーイに5ドル渡して3人の男に返してくるようにいった。5ドルをどうやって3等分しようかと悩んだベルボーイは、3人に1ドルずつ渡して残りの2ドルをくすねてしまうことにした。

その晩遅くベルボーイが思い返してみると、男達はそれぞれ9ドルずつ(10ドルからそれぞれが返してもらった1ドルを引いたもの)を支払ったことになる。

したがって男達が払ったのは27ドル($9×3=$27)、それに自分がくすねた2ドルがあるから、合計では29ドルになり、ベルボーイはあとの1ドルはどこへ消えてしまったんだろうと不思議に思った。何が起きたのだろうか??

当時、この答えがわからず1円玉を30枚集めて考えたりもしましたが、なんか腑に落ちなかったと記憶しています。

さて、1ドルはどこに消えたのでしょうか。もちろん、1ドルはどこにも消えていません。この話から得られるインプリケーションは、日常的な環境でさえ、人は数字やお金のことになると簡単にだまされてしまうということです。 この話が出てくる本には続いて以下が述べられています。

もしもこのような行方不明現象に惑わされるとしたら(実際にたくさんの人が惑わされるのだが)、(中略) 株や投信などに投資する際の判断材料となるべき複雑な財務データを、その彼等が理解しているなんてどうしてそれほど固く信じられるだろう。

非常に示唆に富んだ文章です。このような話の延長がエンロンライブドアの会計不正やサブプライム商品の値付けだといっても過言ではありません。

数字を扱う仕事をしているだけに、「行方不明の罠」に惑わされないよう普段から気をつけなければならないということを、再認識しました。

なお、ホテルの話は以下の本に書かれています。

天才数学者、株にハマる 数字オンチのための投資の考え方

天才数学者、株にハマる 数字オンチのための投資の考え方


「まぐれ」や「ウォール街のランダムウォーカー」をかなり読みやすくした感じです。ちなみに両書とも本書で引用されています。(「まぐれ」に関しては、邦訳前なので「Fooled by Randomness」というタイトルで引用されています。)

著者自身がワールドコムへの投資で大きな損失を被ったことが自虐的に書かれていることもあり、投資の恐ろしさと面白さがひしひしと伝わってきます。行動経済学についてもかなりのページが割かれていますし、読み物としてもかなり面白いです。

P.S
答えは以下の通りです。
○ 3×9-2=25=30-5←実際のホテルの代金
× 3×9+2=29   ←27+2という計算自体無意味