【読書日記11】決算書のワナ
本日は以下の1冊を御紹介します。
- 作者: 永野良佑
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2008/12/11
- メディア: 単行本
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著者は、先日御紹介した「これからの『金融ルール』がわかる本 」や「さくっと読めてしっかりわかる不動産証券化」も書いている永野氏です。
表紙では「現役の倒産リスク・コンサルタント」として紹介されていますが、外資系金融機関で働いていたということ以外は、いまいち経歴不明な著者です。ですが、中身を読んで驚きました。決算書に潜んでいる企業の危ない兆候をかなりわかりやすく解説しています。しかも非常に実践的です。
「短期借入金が多いと生殺与奪権を銀行に握られる」など言われてみると当たり前のことが多いのですが、本書で指摘されているポイントをすべて押さえて財務諸表を見ているかといえば、まったく出来ていない自分がそこにはいました。
内容としては、前半でB/S、P/L、C/Sを見る際のポイントを解説し、後半では実際に破綻した企業の財務諸表を前半で説明した知識を用いて見ることで、破綻する兆候を事後的にですが分析しています。
後半の財務諸表の分析で、何より「やられた!!」と感じたのが、破綻した企業のセレクションです。本書は2008年12月に発売されたのですが、その時点ですでに「ニューシティレジデンス」の破綻を取り上げています。さらに「リーマンブラザーズ」の破綻した原因もリーマンの財務諸表から分析しています。
リーマンが破綻した原因を分析した本はけっこう多いと思いますが、財務諸表から分析したものはあまりないのではないでしょうか。それを2008年12月時点で発表しているのですから、目の付け所が秀逸です。リーマン破綻についての分析は10ページほどだけですが、そこだけでも読む価値はあります。
かなり省略しますが、著者がリーマン破綻の原因を財務諸表から分析した結果を説明いたします。
リーマン破綻の直接の原因は、一層の赤字に対する市場の恐怖心から現金の流出が続き、資金繰りがつかなくなったことであると著者は分析しています。具体的には財務諸表から以下の点が読み取れます。
- 買戻し条件付売却債券→1年で5兆円近く減少
- 金融商品在庫 →半年で4.3兆円を現金化
- 営業活動によるCF →半年で1.8兆円の現金流出
※参考(総資産額)
リーマン:約64兆円、MUFG:約198兆円
以下、引用です。
総合してみると、リーマンは取引相手からの信頼を失いつつあり、市場からの資金調達が難しくなりつつあったことが分かります。そのため、金融機関からの借入を増やすとともに、金融商品の在庫を減らすという形で対応しています。(中略)実際に起きたことは、一層の赤字に対する市場の恐怖であり、それを払拭するために増資を試みたもののそれもうまくいかず、将来の収益性の見込みが立たない中で短期の借換えが出来なくなったと言えます
「決算書のワナ」の著者である永野氏の一連の本を読んで少なからず驚くとともに、恐らく今後は永野氏が書くような「必ずしも専門家が書いたものではない実務からの視点で書かれた」経済に関する本が重要になると思いました。
永野氏が書いた本で私が最初に読んだのは「さくっと読めてしっかりわかる『不動産証券化』」です。それまでに専門書も含め何冊もの証券化に関する本を読んでいましたが、わかりやすさと実用度でいえば、正直他の専門書と比べても郡を抜いています。
その後、永野氏が書いた「これでわかった!ファイナンス―お金に関する基礎知識から、最新の金融理論まで 」や「これからの『金融ルール』がわかる本」、そして今回御紹介したのが「決算書のワナ」を読みました。
改めて振り返ってみると、永野氏が書いた本のジャンルは以下となります。
非常に幅広いです。大学院で教育を受けたものにとっては、本や論文を書くということは、それ相応の専門知識があって初めて出きるものと思っているはずです。事実、研究において経済学の基礎中の基礎の考え方である「分業」の効果を最大限に発揮するには、それぞれの専門家が自分の分野に特化をして研究をすることで洗練された本や論文を出版することが、望ましいこととなります。
ですが、本を読むのに専門的な知識の吸収を目的としない場合は、専門的な視点で学者が書いた本よりも、一般人と比較的同じ目線にたった永野氏が書くようなわかりやくかつ実務で即戦力になる本が大事になってくると思います。
経営コンサルタントの藤井孝一さんも著書にて「専門家になってから本を書くのではなく、専門家になるために本を書く。」と書いていました。恐らく永野氏もそれぞれの分野で最前線の専門家というわけでは必ずしもないと思いますが、本を書くことで一般人の目線で知識を吸収をするとともに自分の経験を織りまぜてアウトプットをし、本を完成させたのではないでしょうか。
経済学者や会計士、エコノミストなどの専門家には書けない内容、分析という意味でもお薦めの一冊です。
P.S
似たような本としては、勝間さんが書いた以下の本も有名です。
- 作者: 勝間和代
- 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
- 発売日: 2007/10/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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会計士、証券アナリストを経験した勝間さんが書いた本だけあって、内容もしっかりしている上にわかりやすいです。「決算書の暗号〜」はどちらかというと株式投資の視点から、「決算書のワナ」は企業倒産を扱っているということで融資の視点から分析しているといえます。どちらもお薦めです。