【読書日記12】竹中教授の14歳からの経済学2

前回の続きで、以下についてです。

  • 経済はとても大切だけど、つかみどころがない。
  • 経済の問題に絶対的な完全な正解はない。
  • What's the problem? What's the solution?

最後のWhat's the problem? What's the solution?についてです。経済はつかみどころがなく、また経済問題に対する唯一絶対の答えはありません。そうすると、そもそもですが、経済において「何が問題なのか」を設定しなくてはいけません。すなわち、What's the problem?です。ここで注意すべきは、解答が示されている問題はすでに問題ではないということです。なぜならば、当たり前ですが、すでに誰かが解いているからです。

論点が広くなるので経済に限定しますが、例えば、金融危機、経済格差、貧困、年金問題貿易摩擦など、解決すべき課題があるからこそ、「問題」となります。ですが、多くの場合、「問題」は他人が与えてくれるわけではなく、自らが能動的に考えなければ「問題」と感じなくなります。いくらニュースで経済危機や財政問題が叫ばれていても、そのことに対して主体的に考えなければ、人間は他人事だと感じてしまうのは、選挙の投票率の低さを見ればわかります。

私は金融問題に興味がありますが、金融機関に勤めていても、現在の金融問題について「問題」だと感じている人に良いか悪いかは別としてあまり会ったことはありません。というのも、普段ビジネスに関すること以外で、マクロ金融全般に関する会話をする機会があまりないからです。

翻って、大学院時代は、比較的に金融や経済に興味を持っている人が多かったので、経済や金融について議論する機会は多かったです。大学院時代にこのような会話が多かったのは、高校までのように与えられた答えがある課題を解く勉強をするのではなく、自分で課題を設定出来、経済に対して問題意識を持てる人が大学院に進学するからだと思われます。(むろん大学院でも、スパルタ的な詰め込み教育をうけますが…。)*1

第2回目の「本ブログを書く理由について」で、東大の岩本先生の文章を引用しましたが、強調する箇所を変えて、再度引用いたします。

問題を解決するということは,教科書の練習問題を解くという意味ではありません。そもそも,どのような問題を設定するのか,ということが大変に重要なのです。1・2年の授業においては,さまざまな経済の問題が提示されるはずです。そのときに,その問題がどのように重要なのか,なぜその問題がとりあげられたのか(多数の問題のなかから,どのようにして重要な問題に絞り込むのか),を自分で考えることが必要です。そして,どのような解答を与えるのか,をまず自分で考えるべきです。その後に,授業や教科書から,経済学者がどのようにその問題に取り組んだか,そしてどのような解答が与えられたか,あるいは未解決のまま残されているか,を学ぶようにします。この自分で考えるという部分が欠落すると,教科書を暗記し,練習問題を黙々と解くという,単なる高等知識の消費者に終わってしまいます。研究者になることは,生産者になるということです。

自分で考え、問題を設定する後には、知識が非常に重要になってきます。万有引力を発見したニュートンでさえも、以下のように言っています。

もし私が他の人よりも遠くを見ているとしたら、それは巨人の肩の上に立っているからだ。

巨人の肩に立つとはメタファーであり、この意味するところは、「これまでの偉大な研究の蓄積=巨人の肩、そのことを土台に研究をした=立つ」、ということになります。だから勉強が重要なのです。

問題を設定し過去の研究を踏まえた後はいうまでもなく、解答もしくは仮説を示す必要があります。つまり、What's the solution?となるのです。

ですが、ここで問題が出てきます。それはsolution=解決策には制約が存在するということです。国債を無限に発行できるならば、年金問題財政赤字も問題になりません。中央銀行長期金利までを含めて、完全に金利をコントロール出来るならば、金融問題の多くは金融政策で解決できることとなります。しかしながら、実際には、国債を無限に発行することは出来ませんし、金利を完全にコントロールすることも出来ません。つまり、制約(constraints)が存在するのです。

では、どうすれば、いいのでしょうか?答えは、ある一定の制約下で、問題を解決できるような解決策を考えるのです。ある一定の条件の下、目的関数内のある変数を最大化もしくは最小化するように設定する考え方は、経済学のロジックに他なりません。例えば、ミクロ経済学で一番初めに学習する消費の理論では、予算制約下で効用が最大化になるように効用関数を解く方法を学びます。

ここまでの話をまとめると、以下のようになります。

  • 問題を設定することが重要。
  • 問題を解決する際には、どんな制約があるかを考慮に入れることが必要。

ブレインストーミングをする際には、最初は発想の幅を広げるためには、「出来ない」をタブーとして、自由な発想で案をたくさん出していきますし、最初から制約を意識する必要は必ずしもありません。ですが、解決策を考える際には、ある程度の制約を設定しないと、解決策を絞れないということも事実です。

色々書いているうちに本書のタイトルがなぜ「14歳からの経済学」になっているのかわかった気がしてきました。日本の教育では、自ら問題を考え、その解決策を考えるWhat's the problem? What's the solution?に接する機会が圧倒的に少ないと思います。もちろん大学でこのような思考法を学びますが、大学受験に疲れきった大学生は、恐らくそんな余裕はあまりなく、大学の授業自体も、かつての私もそうだったように、単位をとることを目的にした高校の延長のような感じで考えている人が多いのではないでしょうか。

本書では経済問題に対する明確な解決策は示されていませんが、What's the problem? What's the solution?に接する機会を与えてくれます。そういう意味で、世の中のあり方に興味を持ち出す高校生ぐらいの年代には適切な本だと思います。

また、世の中の問題にあまり興味を持てない大人にとっても、何が問題かを考える機会に接することが出来るという点で、本書は非常に有益だと思います。さらに経済が苦手な人でも、「経済はとても大切だけど、つかみどころがなく、また経済の問題に絶対的な完全な正解はない。」ということを知るだけでも、気が楽になるのではないでしょうか。

*1:大学院に進学する際の心構えとしての参考文献です。