【経済学】マンキュー経済学14章 競争市場下における企業行動について①

マンキュー経済学14章では競争市場下における企業の行動を分析しています。この章は企業行動のミクロ経済学的アプローチの基礎部分となります。

マンキューにおいて説明される企業の意思決定には、様々な前提条件が課されていることもあり「非現実的で、役に立たない」という意見もあるでしょう。実際、世の中の企業が行うジャッジは、マンキューが想定しているような諸条件とは異なり、多数の利害関係者がいて、将来の不確実性がある中で行われます。それでも、やはりマンキューの解説は企業の意思決定プロセスにとって有益だと思います。理由としては主として3つあげられます。


まず第1に、仮定がおかれた中で企業はどのような意思決定を行うべきかが明確に提示されている点です。企業の意思決定は、状況やタイミングで変わってくるので、取るべき行動は実際には「ケースバイケース」になるでしょう。ですが、そうした場合、場当たり的になってくるのも事実です。他方、マンキューでは、仮定がおかれた上でも「企業は利潤最大化を目指す。」「限界で考える」「サンクコストがあるために短期と長期とで企業の行動は変わる」「長期的には利潤はゼロとなるが、その際には機会費用が考慮に入れられている」といった実際の企業の意思決定においても、ほぼ普遍的であるといえるセオリーが導かれます。これらの結論を実務経験から導くには多大な時間び労力がかかりますが、いくつかの仮定をおくことで、経済学ではこれらが簡単に導き出されることとなります。


第2に逆説的ではありますが、セオリーを学ぶことで、実際の企業の行動との違いを認識できる点が上げられます。実際の企業は「限界の概念」を用いて意思決定を行っていないかもしれません。ですが、その場合はいったいどのような基準で企業は意思決定を行っているのでしょうか。もしからしたら「上司の一言」かもしれませんし、「えいや」かもしれません。実際に企業が行っている意思決定は、マンキューで想定されているものと違う可能性もありますが、違うからこそ「何が違うか」をマンキューを読むことでより把握することが出来るようになります。なぜならば、マンキューでは「合理的な意思決定」の仮定をおいた上で、それから導き出される論理的帰結を提示しているからです。これらは、現実の企業行動を分析する際にも有益な視座を与えてくれます。


第3に仮定を明確に「提示」していることで、仮定が変わったときには企業はどのような行動をとるのかを考えられる点が上げられます。マンキューでは完全競争市場の仮定として「大多数の売り手と買い手」や「財は同一」、「企業の参入退出は自由」ということをおいています。しかし、現実の経済では、企業が独占的に財やサービスを提供していることもあります。また、企業が提供している財・サービスは画一的ではない方が自然といえるでしょう。もちろんこのような事象をいきなり扱った方が近道なのですが、実際にこのような経済状況を扱うには事象が複雑すぎて、そもそも分析するには困難が伴います。そこで、まずはわかりやすい仮定をおき、次に仮定を変えたとき、すなわち独占や寡占を仮定することで、企業行動はどう変わるのかを分析することとなります。まさに「急がば回れ」なのです。また、そうすることで、仮定が変わったときの企業行動の違いもより明確に知ることが出来ます。上述した第2の点は「モデルから導き出される帰結と現実の違いを知る」ことについてでしたが、この点は「モデルとモデルの帰結の違いを知る」こととなります。


なお、経営学の本である「ブルーオーシャン戦略」においても、ブルーオーシャン戦略のミクロ経済学的な説明がなされています。本書では、経済学の独占での企業の行動を示した後に、ブルーオーシャン戦略における企業行動を解説しています。このように経済学的な説明を用いることで、仮定を変える前と後の企業行動及び経済厚生の変化、すなわち、ブルーオーシャン戦略のメリットをより具体的に把握できることとなります。ただ残念なことにブルーオーシャン戦略においては、「完全競争市場(レッドオーシャン)」における経済学的な企業行動の解説はなされていません。今回の章を学ぶことで、レッドオーシャンについての理解も深めていただければと思います。