【経済学】マンキュー経済学13章 生産費用について②

費用の章についてのミクロ経済学読み比べです。Mankiwを初めとする経済学の入門書では、収穫逓減を仮定した上で費用関数への説明へと入りますが、Varianや西村といったミクロ経済学専門の教科書では、まず生産関数の単独の章を設け、生産関数をしっかりと説明した後、生産関数のもう一つの側面である費用関数の説明に入ります。

生産の理論では、企業の利潤最大化と費用最小化という二つのアプローチから企業の生産について分析をしますが、経済学の入門書ではそこまで深入りせず、多くの場合利潤最大化のみしか扱っていません。費用最小化を扱わないことで、説明はすっきりしたものになりますが、「今のパフォーマンスを維持しつつをコストを減らすためにはどうしればよいのか」といった現実における企業の重要な意思決定の説明が欠けてしまい、少し物足りない気もします。費用関数についてMankiwからさらなる学習をするにあたっては、ミクロ経済学的な厳密性を保ちつつも、直感的な説明も大事にしている西村ミクロをお勧めします。武隈ミクロは数式での説明しかないため、西村ミクロの後に読む方がいいのではないでしょうか。

①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter13 The costs of Production

  • 企業行動を分析するにあたり、初めに機会費用の解説を行い、経済的利益と会計的利益の違いを説明している。
  • 生産関数の説明から費用関数の説明へと移行している。ただし、生産関数についてはそれほど深入りせずに限界生産物逓減(diminishing marginal product)を直感的に説明しているのみ。
  • 最後に短期と長期の費用について記述している。時間軸(time horizon)の話については、弾力性や税金等で何度も出てきているので、マンキュー読者には馴染み深い。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter12 Behind the supply curve:inputs and costs

  • 基本的にはマンキューと同様の内容。
  • マンキューと違い機会費用の説明はない一方、Increasing returns to scale,decreasing returns to scale,constant returns to scaleの説明が充実している。
  • 具体例が豊富。収穫逓減の具体例をマルサスの人口論から始まり、ソフトウェア産業にまで当てはめて説明している。


③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter6 the firm's cost P130〜P152

  • 基本的にはマンキューと同様の内容。
  • 生産関数を説明する際に、最初に収穫逓増、収穫逓減、収穫一定の3種類を説明し、費用関数の説明に入っている。
  • 生産における要素として、代替性の原則(the principle of substitution)、費用最小化(cost minimization)及び範囲の経済(Economies of Scope)についての説明があり。具体例が地球温暖化になっており、このあたりは特にスティグリッツらしい例が扱われている。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅱ 効率化と格差是正東洋経済新報 2章供給P57〜P95

  • 生産量が増加すると費用はどうなるかを分析し、そこから供給曲線を導きだしている。
  • その後生産者余剰の分析。生産者余剰=利潤−生産量が0の時の利潤=利潤−(−固定費用)=利潤+固定費用=利潤+生産量0の時の損失
  • Sunk cost,explicit cost,implicit cost(accounting cost)についても解説もあり。


⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chap21 P378〜P394

  • Chap19でProfit Maximization,Chap20でCost Minimizationを経て、Chap21でCost Curvesを扱っている。
  • 企業が利潤最大化するにあたりどのような生産関数を想定しているのか、産出量が決まっている際にいかにして費用最小化を行うのか、そして最適な産出量が決定されるに際して費用はどのような特徴を持っているのか、という流れで解説をしている。
  • グーグルのチーフエコノミストだけあって、オンラインオークションの費用曲線(クリック数が費用に影響すると仮定)という特殊事例を説明している。


⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 3.1費用と供給 P72〜P103

  • 企業行動の一番最初の説明として費用関数を説明している。
  • 費用関数について数学的な説明を重視している。直感的な説明はほぼなし。「平均費用曲線の最低点を限界費用曲線が通過する」ことに対しても、数式で解説している(この解説を行っているのは武隈ミクロのみ。)
  • 費用関数→供給曲線→生産要素→生産関数→等産出量曲線→費用最小化という流れで説明。ミクロ経済学的説明の流れは非常にわかりやすい。


⑦西村和雄(1995)「ミクロ経済学入門第2版」岩波書店 第7章企業行動と費用曲線P143〜P182

  • 第6章にて「企業行動と生産関数」を説明した後の章として第7章で費用曲線を説明している。
  • 生産関数の後に費用関数を説明しているが、その理由として「生産関数と費用関数は、コインの裏と表のような関係にありますが、生産関数という技術的制約があって費用関数が求まります。そこで、まず前章で生産関数を説明し、次に本章で費用関数を導出するという方法を選んだわけです。」と述べている。
  • 数学的説明と直感的説明をバランスよく行っている。固定費用をコンビニエンスストアの地代、限界費用と平均費用を野球の打率に例えて説明している。