日本経済の不況の原因は何か4〜円安バブルはいかにつくられたのか〜

前回は現在の日本経済の不況の原因のひとつとして、円安バブルが崩壊したことについて言及しました。では、どのようにして円安バブルは生まれたのでしょうか。

ここは野口先生に代わって、元財務官でミスター円の異名を持つ、現早稲田大学教授の榊原先生に説明していただきましょう。以下榊原先生の「間違いだらけの経済政策」より引用です。

  • 日本銀行はデフレ懸念からゼロ金利政策を継続し、財務省は実質実行為替レートがかなり円安だったにもかかわらず、大型ドル買い介入に踏み切り、結果として円安バブルを作り出してしまったのです。
  • 円安バブルは02年から07年にかけて、小泉政権のもとで進行しています。小泉・竹中路線による経済運営、そして、結果としてそれに協力した日本銀行によってバブルは拡大していったのです。

つまり、円安バブルは小泉政権のもと、二つの政策、すなわちゼロ金利政策の継続」「03年から04年にかけての巨額のドル買い介入(為替政策)」によって生まれたというのです。

まず前者のゼロ金利政策が円安バブルを生んだ背景をもう少し詳しく見ましょう。ゼロ金利政策及び量的緩和を日銀が続けた理由は日本経済がデフレ基調にあり、不安定な状況にあったからです。*1しかしながら、この長すぎたゼロ金利政策という超低金利政策が円キャリートレードを生み、円安バブルをつくり出したというのです。
キャリートレードとは、低金利の円で資金を調達し、外国の高金利の通貨で運用するというものです。例えば、仮に日本が金利1%でアメリカが金利5%の時、日本の円で資金を調達し、アメリカのドルで運用をすれば、利ざやの4%を儲けることできます。

次に後者の「巨額のドル買い介入」についてです。この為替介入には日米の思惑が大きく影響しています。アメリカは2001年春頃からITバブルが崩壊し、また同年9月11日は同時多発テロ以降は、急激に景気後退局面に入りました。これに追い討ちをかけたのが、エンロンワールドコムによる会計スキャンダルでした。この時期ドルは対ユーロ、円で大きく下落したのです。

他方、日本は2003年当時日経平均が今のように8000円を割り、ただでさえ不良債権処理で厳しい状況にいるうえに、株価の下落により銀行の自己資本が大きく毀損した状態でした。これ以上の円高はさらなる株安を招き、日本経済にとって大きな打撃を与えてしまいます。そこで行われたのが、円安にするための「巨額のドル買い介入」だったのです。円安にすることで、日本の株価を支えるとともに、輸出企業の利益増加を図ったのです。

結果、2003年から2004年にかけて35兆円ものドル買い介入を政府はおこなったのです。35兆円の介入はどれほどの規模なのでしょうか。またまた榊原先生に登場し、説明していただきましょう。

95年、1ドル80円を突破した円高の時、筆者(榊原氏)もかなり激しいドル買い介入を行いましたが、95年、1年間の介入額は6兆円を下回るものでした。いかに10ヶ月で35兆円という額が大きなものかわかるでしょう。

1ドルが80円を下回ったときの為替介入でも6兆円だったのです。35兆円とはまさに異常な為替介入といえるでしょう。そして、この介入が市場に「日本はいざとなったらドルを買う」という印象を与えてしまった可能性が高いです。この介入がさらに円キャリートレードを促進させた側面も恐らくあると思われます。

以上、円安バブル生まれた背景についてでした。

*1:量的緩和は2006年3月に、ゼロ金利は2006年7月に解除されました。