日本経済の不況の原因は何か17〜パシフィックホールディングス破綻の原因を考える〜

大手不動産ファンドのパシフィックホールディングスが倒産しました。詳細は帝国データバンクのサイトをご確認ください。
サマリーは以下の通りです。

パシフィックホールディングス(株)(資本金196億3947万4550円、千代田区永田町2-11-1、代表織井渉氏ほか1名、従業員171名)と子会社のパシフィックリアルティ(株)(資本金1億円、同所、代表秋澤昭一氏)、(有)パシフィック・プロパティーズ・インベストメント(資本金300万円、同所、秋澤昭一氏)の3社は、3月10日に東京地裁会社更生法の適用を申請し、同日保全命令を受けた。

 パシフィックホールディングス(株)は、1990年(平成2年)3月に設立。95年4月に商号をパシフィックマネジメント(株)に変更し、投資家から出資を受けて不動産投資ファンド事業を主力としていた。2001年12月に株式を店頭公開(現・ジャスダック)、2003年9月には東証2部上場、さらには2004年10月には東証1部に上場するなど、不動産私募ファンドの大手としての地位を築いていた。

 しかし、サブプライムローン問題に端を発した金融機関の融資姿勢の厳格化および不動産市況の急速の悪化に伴い保有不動産の売却が進まず資金繰りが悪化。

 負債はパシフィックホールディングス(株)が約1636億4600万円、パシフィックリアルティ(株)が約994億2900万円、(有)パシフィック・プロパティーズ・インベストメントが約634億4700万円で、3社合計では約3265億2200万円。グループ合計の負債としては(株)SFCG(負債3380億4000万円)に次いで今年2番目の規模となる

「日本経済の不況の原因は何か」で日本の不況の理由の1つとして不動産バブルの崩壊を挙げました。また以前、不動産会社の破綻の多さについても言及しました。今回は、不動産バブル崩壊及び大手不動産会社の破綻の理由を考察するために、パシフィックホールディング(以下、PHD)破綻の原因を考えたいと思います。

PHD破綻の原因を考えるため、ざっとバランスシート(連結)を見てみます。

直近の2008年11末決算では、PHDはすでに約53億円の債務超過となっており、B/Sはかなり痛んでいる状態です。よって、不動産バブルが弾ける前*1である約1年前の2007年11末のPHDのB/Sを見てみたいと思います。
まず資産の部は以下の通りです。

  • 流動資産約:約2700億円(うち、現金約410億円、販売用不動産1450億円、仕掛不動産600億円)
  • 固定資産 :約680億円(うち土地230億円、投資有価証券110億円、長期事業目的有価証券130億円)
  • 総資産   :約3380億円

続いて、負債及び純資産の部は以下の通りです。

  • 流動負債:約1590億円(うち、短期借入金1320億円、1年以内償還予定社債約62億円)
  • 固定負債:約1110億円(うち、社債約300億円、長期借入金680億円)
  • 純資産 :約680億円
  • 総資産 :約3380億円

なんともわかりやすいB/Sです。すなわち、資金の半分近くを短期で借入れ、そのお金で販売用不動産を買い、それを売却して利益を出すというビジネスモデルです。このようなレバレッジをかけた両建て取引により、PHDのB/Sは以下のようにほぼ倍々ゲームで巨大化していきます。

  • 2004年11末 総資産約530億円
  • 2005年11末 総資産約1350億円
  • 2006年11末 総資産約1950億円
  • 2007年11末 総資産約3380億円

では、なぜこのように短期で資金を借入れ、販売用不動産を購入しているのでしょうか。そのヒントは、有価証券報告書の「事業等のリスク」に書かれています。以下、有価証券報告書より一部を引用です。

1.不動産ファンド事業について
当社グループは不動産投資ファンド事業を中核事業として安定収益源と位置づけ、重点的に経営資源の配分を行い、当該事業を中心としたサービス事業を展開していく方針であります。


2.不動産投資事業について
当社グループでは不動産投資事業において、不動産投資ファンドの預り資産残高の拡大を目的としてグループで運用する不動産投資ファンドにバランスシートに保有する販売用不動産を売却する場合があります。


3.連結の適応範囲について
当社グループは不動産投資ファンド事業の遂行上、不動産投資ファンドの組成完了までの間、収益性の高い不動産を先行確保することを目的として、SPVを設立し一時的に自己資金にて当該SPVに対して匿名組合出資の全額又は一部の投資を行う場合があります。


4.有利利子負債への依存度が高いことについて
当社グループは不動産投資事業として、今後計画されている不動産投資ファンドを組成するために、先行して不動産を確保しておりますが、当該不動産購入資金は主に金融機関からの借入金(ノンリコースローンを含む)及び社債の発行により調達しております。

すなわち、PHDは不動産ファンドビジネスを運営する上で、短期で資金を借入れ、いったん不動産を自らのバランスシートで抱え、その後自社関連のSPV保有する販売用不動産を売却するという形式をとっていたのです。だから、販売用不動産と短期借入金が異常に多くなっていたといえます。

サブプライムショック及びリーマンショック前までは、自らのB/Sで不動産を抱えたとしても、出口で私募の不動産ファンドや自らが運営するREITに売却することが出来たので、B/Sに不動産をかかえることは、それほどのリスクになりませんでした。また、外銀系の証券化レンダーや邦銀系のバランスシートレンダーがいてくれたおかげで、資金の調達もすんなりとすることが出来ました(PHDが不動産を買うときも、売るときの買い手も)。

しかし、サブプライムショック・リーマンショック以降、外資系の証券化レンダーは不動産ファイナンスからほぼ撤退し、邦銀のバランスシートレンダーもリファイナスに応じなくなったため、PHDのような回転型の不動産ファンドビジネスは立ち行かなくなりました。さらに、抱えた販売用不動産の在庫を売ろうにも買い手がいませんし、ファイナンスをつける金融機関もいません。そんな中、抱えている不動産も腐ってきました。不動産価値が目減りする中、損失覚悟で不動産を売却し、債務超過になった上が、以前資金繰りは厳しい状態。結果、破綻になってしまったと予想されます。(恐らくですが、2008年11末にB/S上にある販売用不動産約1800億円は、現在時価では1200億円の価値があるかないかぐらいです。それぐらい今の不動産市況は厳しいのです。)

上記の内容をまとめると以下の通りです。

1.不動産ファンドへの売却やREITへの売却を前提として、不動産を自らのB/Sで抱える。
2.不動産価格が上昇しているとき、また証券化マーケットが好調なときは、ばんばん不動産が売れる。
3.短期借入れを増やし、販売用不動産の在庫を増やす。
4.サブプライムショック及びリーマンショックにより、不動産マーケットが急激に悪化。
5.抱えている在庫の不動産がうれず、また価値が目減りしている状態。さらには借入金の満期が到来する。
6.しかしながら、買い手もいないし、金融機関は貸し渋りをする。
7.座してローンの満期(死)を待つ。

ちなみに、2008年に破綻した大手不動産会社スルガコーポレーションやゼファー、アーバンコーポレーションもPHDとほとんど同じようなB/Sの状態でした。

以上、PHD破綻についての考察でした。なお、上記では「レバレッジ」「ノンリコースローン」「証券化」「分散投資」というキーワードをほとんど使いませんでしたが、これらのキーワードを折り込んで、今回の不動産ファンドの話を展開していくと、不動産ファンドがなぜ儲かり、そして破綻していったのかが、よりわかります。このことについてもまたおいおい書いていく予定です。

*1:不動産バブルがいつ弾けたかは厳密には定かではないし統一的な見解はないですが、2008年3月頃より大手建設会社や不動産会社が破綻し始めています。よって、2008年前半には不動産バブルは弾けていたと推察します。