価値観と経済の関係を考える

9月7日の日経の経済教室では、阪大教授の大竹先生が投稿されていました。

本経済教室では、宗教、家族に関する考え方、公共心といった価値観や文化が国による制度の差や経済パフォーマンスの差を生み出しているという研究を紹介しています。具体的には以下のとおりです。

  • 天国や地獄といった死後の世界の存在を信じる人の比率が高いほど経済成長が高い一方、教会に熱心に行く人の比率が高いほど経済成長率が低い。

  • 政府から給付を受けることについて道徳観が低く、ウソをついて不正受給しても罪悪感を感じない人の比率が高いほど、失業給付の水準が低く、解雇規制が強い。

  • 18歳から25歳の頃に不況を経験するかどうかが、その世代の価値観に大きな影響を与える。この年齢層で不況を経験した人は、「人生の成功が努力よりも運による」と思い、「政府による再配分を支持する」が、「公的な機関に対する信頼を持たない」という傾向がある。


  • 規制緩和が進んだ地域や競争が激しい産業で働いているほど、他人を信頼する傾向が強い。


宗教と経済に関する議論といえば定番はマックスウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」です。資本主義を語る上では、必読といえるでしょう。

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)


個人的には青字の実証結果が非常に興味深かったです。むしろ不況だからこそ、努力が必要な気もするのですが、実証研究によると、逆に「不況だから仕方がない」と運まかせになってしまうということでしょうか。

ところで、どのようにして上記のような研究結果を導き出すのでしょうか。答えは、「計量経済学の手法を用いる」です。何千何万ものパネルデータを使い、色々と回帰分析することによって上記の結果を導き出しています。だから、たった一つの仮説を導き出すためにも、地道にデータを加工し、それこそ何百時間と分析してやっと一つの実証結果を示すことが出きるのです。

似たような研究をしている本としては以下が有名です。

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]



前者の本は、2006年度週間ダイヤモンド経済ビジネス書部門1位にランキングされた名著です。後者の本は、今回の経済教室の執筆者である大竹先生が書かれた本です。大学院時代の同期が素敵な書評をしているので、リンクを貼っておきます。ちなみにリンク先のブログの最後に出てくるFreakonomicsは「ヤバイ経済学」の原著です。当時はまだ和訳が発売されていなかったと記憶しています。

今回の大竹先生の投稿で経済学に興味を持った方は、是非上記の2冊を手に取っていただきたいと思います。