【経済学】マンキュー経済学12章 税の制度設計について

マンキュー経済学12章「税の制度設計」についてのミクロ経済学読み比べです。今回のテーマは「税金」ですが、包括的な経済学の入門書であるマンキュー、クルーグマンスティグリッツでは単独で「税金」もしくはそれに準ずる章が存在する一方で、いわゆるミクロ経済学の専門書では「税金」といった視点で単独の章は存在することはあまりありません。
私が学生時代に経済学を勉強したときを思い出してみても、税金を扱う場合は「マーケットが均衡している状況で税金を課すとどのような変化が起こるのか」といった応用的扱いだったと記憶しています。

税金は経済学においても実体経済においてもとても重要なトピックだと思いますが、日本語の経済学の入門書において税金に関する身近な事例及び税制があまり扱われていないのは残念です(八田先生の本では政策という視点で税金について色々学ぶことは出来ます)。日本の税制を学ぶにあたっては別途税制の専門書を読む必要がありそうです。

なお、勉強会において、平成22年度一般会計予算の概要(歳入及び歳出)の円グラフを参考資料として添付したのですが、その際議論になったことは「国民は税金を取られることには敏感に反応するが、どのように税金が使われているかは鈍感である」ということでした。特に若者は税金による再配分のメリットをそれほど享受していないため、歳出に対してはそれほど気にかけないかもしれませんが、円グラフをみて、いかに社会保障費が多いかということをビジュアルで確認できれば、少しは税に対する意識が変わるかもしれません。

①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter12 The design of tax systems

  • 税の制度設計についての章。制度を把握するにあたってまずアメリカの歳入及び歳出の概要を解説している。
  • 次に税制を効率性と公平性の観点から説明することで、望ましい制度設計を検討している。効率性については8章の内容を一部引用し、公平性については、応益原則と応能原則を解説。
  • 最後に税の制度設計にあたっての効率性と公平性のトレードオフについて言及するとともに、政治的要因についても補足している。政治力が影響してくる税制にあって、マンキューが最後に指摘している「Economist can help us avoid policies that sacrifice efficiency without any benefit in terms of equity」の箇所は非常に重要。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter7 TaxesP167〜194 マンキューと同レベル

  • Chapter7「Tax」で税金について扱っている。この章はマンキューの8章と12章を両方をまとめているような体裁をとっている。すなわち、前半では課税することでどのように死荷重が発生するかを、後半では徴税の仕組み(応益原則、応能原則等)や税の効率性と公平性を解説している。
  • 税金はtax base(課税標準額)とtax structure(税率) の2つから構成されている点の説明があり、その後に税金の種類(Income tax,Pay roll taxなど)と特徴を載せている。
  • 通常アメリカ政府は(州単位含む)は応能税を採用したがらない点を指摘している。理由は税が高いと他の州や地域へと人々が移動してしまうからである(インセンティブの問題)。


③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405〜P 419(邦訳版ではスティグリッツミクロ経済学) Chater17 Public SecotrP381〜P395 マンキューと同レベル

  • Chapter17「Public Sector」において、税の仕組み及びアメリカの税制について記述がある。
  • 税制の五大原則を解説している。 Fairness(公平性)、Efficiency(効率性)、Administraitives Simplicity(事務の簡易性)、Flexibility(柔軟性)、Transparency(透明性)
  • アメリカの所得移転プログラムとして以下を紹介している。 Welfare,Medicaid,Food Stamp,Supplyment security income,Housing assistance なお、スティグリッツにおいては上記は紹介する程度に留まっているが、八田(2009)においては上記につき、経済的効率性、公平性の観点からメリットデメリットをそれぞれ分析をしている。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅱ 効率化と格差是正東洋経済新報社 P461〜P503 初級レベル

  • 税金といった切り口での単独の章は存在しないが、効率性・公平性の視点から様々な点で租税について解説している。
  • 具体的には第13章「労働」では賃金所得税、第14章「生産性要素の総量市場と帰属所得」では地代所得税及び土地の固定資産税、第15章「供給者による自家消費」では売上税(物品税)、家賃所得税帰属家賃税、そして22章「格差是正政策」では累進所得税について記述されている。ほぼすべてにおいてグラフ及び簡単な数式を用いて徴税の効果を分析している。
  • 22章「格差是正政策」においては、個人再分配政策として①累進課税、②使途自由補助金、③使途指定補助金の経済的効果を解説している。上記で言及したスティグリッツの解説をさらに一歩進めて理解するのに役立つ。


⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton (邦訳版では入門ミクロ経済学)  P22〜P32、P 293〜P313など 初〜中級レベル

  • 税金といった切り口での単独の章は存在しない。税金を課した場合の特殊ケースをいくつかの章で扱っている。
  • Chapter2「Budget Constraint」において、税金が存在する場合、消費者の予算制約がどのように変化するかを説明してる。
  • Chapter16「Equilibrium」では、税が課された場合に需要曲線と供給曲線はどのような変化が起こるかを数式を用いて解説してる。MankiwのChap8の数式解説があるバージョンともいえる。その後課税により発生する死荷重の解説がある。


⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 P227〜P231 初〜中級レベル

  • 税金といった切り口での単独の章は存在しない。
  • 7章「公共財」において、「市場における課税の効果」を解説している。
  • 解説している内容は従量税、従価税、補助金の3つ。これらが存在する場合、需要曲線と供給曲線はどのように変化するかを効率性の観点から説明している。


⑦西村和雄(1995)「ミクロ経済学入門第2版」岩波書店 P80〜P81 初〜中級レベル

  • 税金といった切り口での単独の章は存在しない。
  • 第4章「消費者行動と需要曲線」において、間接税(税法上の納税者と実際上の租税負担者が異なる税金)を紹介するともに、グラフを用いて消費者にとっては間接税よりも直接税の方が有利(効用が高い)ことを指摘している。

以上