【経済学】マンキュー経済学11章 公共財及び共有資源について

マンキュー経済学第11章では、公共財と共有資源について書かれています。これまでマンキュー経済学で紹介されてきた内容は、主に市場で取引される財についてでした。他方で、必ずしも市場で取引されない財もあります。 例えば、国・地方自治体が提供している公共サービス(一般道路、公園、国防等)です。これらはなぜ国によって提供されるのでしょうか。民間が提供できないものなのでしょうか。これらについて書かれているのが、マンキュー経済学の第11章です。

本章を学ぶにあたり、「公共財」の箇所について代表的なミクロ経済学の教科書の読み比べをしました。詳細は下記をご確認願います。読んでいて特に面白く感じたのが、「公共財」の定義についてです。必ずしも統一的にされているわけではなく、教科書により微妙に定義が異なっていました。

その他、武隈ミクロはやたらとアカデミックな内容だということを思い知らされました。具体例はほぼなく、抽象的な数式と図及びそこから導き出される経済学的なインプリケーションが延々と続きます。アカデミックな内容をやさしく説明しているだけな感じです。学生時代は武隈ミクロをバイブルにして読んでいたのですが、当時私はいったい何をインセンティブに本書を読み続けたのかを今頃になって疑問に感じます。恐らく一言で言ってしまえば「大学院入試のため」だと思われますが。
西村ミクロも多少具体例はあるものの、中級レベルの教科書だけあって、やはり経済学的な効率性の説明を重視して書かれています。
八田ミクロは本当に秀逸です。読み物としても面白いですし、簡単な数式及びグラフでの説明もあるので、経済学的にどのような政策が望ましくまた望ましくないかも直感的にわかるように書かれています。

①Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」Norton P405〜P 419(邦訳版ではスティグリッツミクロ経済学)

  • 不完全市場(imperfect markets)にて公共財が紹介されている。「公共財」というテーマ単独で章は割かれていない。その他に不完全市場として解説されている内容は「不完全競争」「不完全情報」「外部性」の4つ。
  • 限界費用がほぼゼロ」という視点で公共財を説明している(The marginal cost of providing a pure public goods to an additional person are strictly zero,and it is impossible to exclude people from recieving the good)
  • フリーライダー」が存在するため、民間市場(Private Market)では、公共財の供給が少なくなることを指摘。 →直接は言及はしていないが、このことが発生するのは原理的には外部性が存在するためである。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH P433〜454(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) マンキューと同レベル

  • マンキュー経済学と同じく「Public Goods and Common Resources」という章で公共財及び共有地の悲劇を扱っている。
  • 公共財の定義もマンキューとほぼ同じ。クルーグマンミクロでは以下の4つの分類を行っている。
    • Private goods(rival in consumption,excludable)
    • Public goods(nonrival in cosumption,non excludable)
    • Common resources(rival in consumption,non excludable)
    • Artificially scarce goods(rival in consumption,non excludable)
  • マンキューではArtificially scarce goodsの解説が少ないが、クルーグマンでは充実している。その他「限界(Marginal)」の概念を用いて、最適な公共財の供給及び経済厚生についての解説もあり。

 
八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅰ市場の失敗と政府の失敗への対策」東洋経済新報社 P349〜P381  初級レベル

  • 非競合性を「『規模の経済』が極端な財」として説明している。 なお、資源投入を一定に保ったまま、使用者を増やすことが可能な性質を持つ財・サービスを非競合財としている。
  • 本書で言及されている公共財の定義3種類。
    • 「無料で提供される非競合財」(無料がポイント)
    • 「排除不可能な非競合財」(大半の教科書の説明)
    • 「外部経済効果を複数の受益者に対して引き起こしている財」(公共財の分析が本格的に始まった1950年代のサミュエルソンの論文では、上記外部性による定義に極めて近い定義を用いている。)
  • 費用便益分析を用いて、「道路無料公開の原則」を説明している。高速道路の有料・無料についてもミクロ経済学の視点から詳細に分析している。


④武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 P232〜P242 初〜中級レベル

  • サミュエルソン条件(公共財の供給がパレート最適な状態であるならば、個人の限界代替率の和は限界変形率に等しい。)についての説明あり。
  • リンダ−ルメカニズム(政府が人々の嗜好を取り入れて公共財の供給量とその費用分担を決定させる方法であり、政府に市場機構の役割を担わせる方法)についての説明あり。→「利益が得る人が負担をする」という受益者負担の原理ともいえる。
  • リンダールメカニズムの限界として、フリーライダーが紹介されている。


⑤西村和雄(1995)「ミクロ経済学入門第2版」岩波書店 P294〜P301 初〜中級レベル

  • 公共財を外部効果の特殊ケースであるという立場で純公共財(消費が非競合的でかつ、供給が非排除性を持つ財)を、分析している(数式あり)。
  • 公共財が存在する場合のパレート効率性の条件が示されている。(私的財は一定の価格に対する需要量の「水平和」を社会的需要曲線とする一方、公共財は一定量の財に対する限界評価の「垂直和」を社会的需要曲線とすることになる。)
  • 公共財の場合、市場を通じてはパレート効率的な配分が補償されないため、外部効果と同様に自主的交渉もしくは政府の介入が必要になる。しかしながら、実際の最適供給量を把握することは困難で、公共財は政治的な解決がなされやすいことを指摘している。 →ちなみに、八田ミクロでは、そのことを踏まえ、政治的プロセスがどのようになされたかをさらに踏み込んで分析している。


⑥Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton P645〜P665(邦訳版では入門ミクロ経済学) 初級から中級レベル

  • 「最適な公共財の供給はどのようにしてなされるか」を中心に解説されている(数式の展開あり)。公共財の定義は「a good that must be provided in the same amount to all the affected consumers」となっており、公共財を消費外部性(consumption externalities)の特殊例として扱っている。
  • 公共財の供給に際して発生する「フリーライド問題」を、ゲームマトリックスを使い説明するとともに、一見すると似ている「囚人のジレンマ」との相違点を説明している。
  • VCGメカニズム(真の評価値を申告することが最適な戦略(支配戦略)になることを保証する組み合わせ)についての解説及び問題点が書かれている。

以上