【経済学】マンキュー経済学13章 生産費用について①

ミクロ経済学は大きく二つに分けると、「消費の理論」と「生産の理論」に分けられます。これら二つは考え方を含め、互いに表裏いったいとなっています。消費の理論では消費者の行動を分析し、消費者の意思決定行動が需要曲線によって表されることになります。他方、生産の理論では企業の生産行動を分析し(独占や寡占を含む)、企業の生産に関する意思決定が供給曲線に反映されることとなります。

マンキュー経済学13章「The Cost of Production」は生産の理論についての初めの章であり、以降の章で生産者の行動をより具体的に分析していくこととなります。生産の理論(マンキューでは、Firm Behavior and the organaization of industryとしている)のスタートとしてマンキューは、「費用」についての解説を選んでいますが、理由としては、企業が生産量や価格の設定にあたり、費用が重要なカギとなるからとしています。と同時に、本章は非常に退屈な章だとも指摘しています。(This topic is dry and technical.To be honest,one might even call it boring)

本章のポイントは、様々な費用の種類を学ぶことにあります。Explicit Costから始まり、costがつく言葉が9種類も出てきます(Table 3:The many types of Costより)。詳細な説明は本文に譲るとして、様々な費用の中でも、私は特に以下の3つの費用に関する考え方を理解することが重要だと思います。

まず1つ目は、機会費用(opportunity cost)です。経済学者は、企業の生産と価格設定の意思決定について関心を寄せています。企業がこれらの意思決定をするにあたり、費用がどのようにかかるか特に重要になってきますが、経済学的な考えである機会費用は厳密には観察できないため、費用を考えるにあたってはよりいっそう注意を払う必要があります。他方、会計士は経済学者と違い、企業の資金繰りを記録する仕事なので、必ずしも機会費用を意識する必要なありません。この点が経済学的思考の面白い部分だと思います。

2つ目は、限界費用と平均費用です。企業はそれぞれの生産ステージにより例え同じ物を生産する場合でも、コストのかかり方が変わってきます。限界費用の考え方はこのことを捉えるために必要となってきます。「限界」という概念はマンキュー経済学10大原理の一つである「合理的な人々は限界原理に基づいて考える」ですでに説明されていますが、理論で応用されて説明されたのはこの限界費用が初めてだと思われます。以降の企業行動に関する章でも「限界」の考え方がバンバン出てくるので、この章で「限界」という概念を完全に理解することが肝要です。

3つ目は、短期費用と長期費用です。短期では費用は可変費用固定費用に分解できますが、これらの可変と固定という考え方は、時間軸に依存しています。すなわち、短期的には固定費用であっても、長期的には可変費用になるということです。厳密には「すべての費用を可変費用として捉えることが出来る期間」を長期とした方が適切かもしれません。この考え方はマクロ経済学にも応用されています。例えば、短期的には賃金の価格の下方硬直性が存在していても、長期的には存在しなくなるというようにです。

本章は盛りだくさんの内容で同時にテクニカルでもあることから、マンキュー自身が指摘しているようにともすると読んでいて「退屈」に感じるかもしれません。しかしながら、経済学的な思考に触れるにはうってつけです。経済学的思考を学ぶのに、最近は阪大大竹先生の「競争と公平感」やレヴィットの「ヤバイ経済学」といった一般向けの名著がたくさんありますが、本章のような「ど真ん中」の経済学を学ぶことによって、経済学的思考を身につけるのもいいのではないでしょうか。わずか18ページの内容ですが、経済学のエッセンスが非常に詰まっています。