日本経済の不況の原因は何か8〜カバー付き金利裁定条件〜

前回の続きで、金利が高い国に投資することについてです。気が付いたら日本経済の不況の原因とは程遠い議論をしているようですが、為替の話をしなければ、「円キャリートレード」をきちんと理解が出来ず、また日本が不況になった理由のひとつである「円高による円安バルブ崩壊」も説明ができないので、もうしばしお付き合い願います。

さて、1ドル100円のとき100円を借りて、1ドルをアメリカで5%で運用し1.05ドルになったら、1年後100円に1%の金利をつけた101円で返済するという取引を考えます。仮に1年後のドル円レートが1ドル100円のままならば、確実に4円(105円-101円)を儲けることができます。

しかし、為替は変動するので、1年後の為替レートいかんいより発生する為替差益(損)も考慮に入れると、いくらか儲かるかわかりません。1年後円安になれば為替益で儲かるし、円高になれば為替損で金利の益4円がなくなるくらいの損をする可能性もあります。そこで、現時点で1年後の先物を予約するとします。仮に1年後の先物が現在と同じ1ドル=100円ならば、1年後の先物予約をすることで、確実に4円儲かります。ということは、皆この取引をするはずです。

では、先物価格がどうなるまでこの取引(1ドル100円で借りると同時に先物でヘッジする取引)は続くのでしょうか。

  • 先物レートが1ドル100円の時、4円の儲け(金利4円−為替差損0円)
  • 先物レートが1ドル99円の時、 3円の儲け(金利4円−為替差損1円)
  • 先物レートが1ドル98円の時、 2円の儲け(金利4円−為替差損2円)
  • 先物レートが1ドル97円の時、 1円の儲け(金利4円−為替差損3円)
  • 先物レートが1ドル96円の時、 0円の儲け(金利4円−為替差損4円)

すなわち、先物のレートが1ドル96円になるまで、先物で「ドル売り円買い」が続くのです。1年後の先物が1ドル96円の時は、今1ドル100円で借りて、1ドルを1年間運用し1.05ドルになるところを、先物レート1ドル96円でヘッジしておくと、96×1.05≒101円。そして、100円に1%の金利がついた101円を1年後に返す。ということは儲けが0円です。

この儲け0円とはどういう意味でしょうか。これは、金利差によって儲けた4円が、ドル安円高に4円なることで相殺されているということです。つまり、インカムゲインがキャピタルロスによって打ち消されている状況です。そうなるまで上記の取引は続くのです。なぜならば、それまではリスクがない裁定取引で「確実」に儲けることが出来るからです。ですが、市場にはフリーランチは存在しない(と考えれている)ので、金利の儲けがなくなるまで、先物ではドルが売られることとなるのです。

今までの結果をまとめましょう。

日本の金利1%
アメリカの金利5%
直物レート 1ドル100円(今のレート)
先物レート 1ドル96円(1年後の先物レート。96円になる理由は上記を参照してください。)

1年後の契約を行う先物レートのドル円は、今のレートである直物レートよりも、ドル安・円高になります。アメリカの方が金利は高いのですが、「一般的には、金利の高い通貨が買われる傾向にある」とはならず、1年後の先物レートはドル安・円高になっています。すなわち、金利が高い通貨は増価(買われる)するのではなく、減価(売られる)するのです。これが、為替の先物理論の基本中の基本である「カバー付き金利裁定条件」です。

以上から以下のことが導かれます。

「一般的には、金利の高い通貨が買われる傾向にある」とニュースでも報道されているし、本にも書いている。しかし、裁定取引が働いている市場において、カバー付き金利仮説が成り立つ先物レートでは、金利が高い通貨は減価することとなる。

上記のことは覚えておいて損はしないと思います。ただ、上記でもひとつトリックを使っている箇所があるので、すべて真に受けても危険です。では、どんなトリックがあったのでしょうか。続きは次回です。