日本経済の不況の原因は何か9〜為替の先物は将来を予想していない?〜

前回では、「金利が高い通貨の先物レートは減価する」ということについて述べました。通常は、金利が高い国通貨は買われるといわれています。しかしながら先物レートでは、金利が高い通貨は減価しているのです。今はドルの金利と円の金利差がほとんどないため、先物レートは直物とほとんど変わらない状況ですが、サブプライムショック前までのドル円先物レートを見ると、確実にドル安円高になっていました。

未来の取引を行う先物市場では、金利が高い通貨は減価する。ということは、仮に日本の金利が1%で、アメリカの金利が5%の場合、アメリカの金利の方が高いため、先物レートは、ドル安円高になります。ですが、もし将来に先物レートのようにドル安・円高になってしまうと、円キャリートレードで儲けるどころか、手数料を考慮に入れると損までが出てしまいます。為替の先物レートとはいったい何なのでしょうか。

上記のことが前回書いたトリックということです。ここでのポイントは、為替の先物レートは金利差で決まるということです。そう、為替の先物レートは、株式オプションの先物や商品先物のように投資家の予想で決まるのではなく、2国間の金利差で決まるのです。

前回の説明で用いたのは、直物のレート1ドル=100円、日本の金利=1%、アメリカの金利5%という3つの条件のみでした。この三つの条件(直物レート及び2国間それぞれの金利)があれば、為替の先物レートは決まるのです!だから、金利が高い通貨は、先物では減価することで、裁定取引が出来なくなっているのです。

以下は、元JPモルガン銀行東京支店長で、伝説のディーラーとまで呼ばれた藤巻健史さんの「藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義」からの引用です。

為替の話ではないのですが、1年後のマーケットを予想している先物マーケットってあるんです。あとで説明する金融先物が良い例です。しかし、為替に関しては決して1年後のドルを予想しているというわけではないのです。もし、予想しているのであれば、アメリカの金利が日本の金利より高い限り、先物のドル/円って直物レートより必ず低いですから、必ず、いつ、どんなことがあってもマーケットは将来ドルが下がるっていうふうに予想しているということになってしまいますね。そんなことはあり得ないんです。

前回ではトリックと書きましたが、上記がその答えです。すなわち、為替の先物は投資家の予想ではなく、金利で決まるということです。だから金利が高い通貨の先物は自動的に減価することとなるのです。

ということは、仮に先物レートでは、ドルが減価していたとしても、実際に1年後の直物は増価している可能性もあるので、円キャリートレードにおいては、為替ヘッジをしないことが必要となるのです。なぜならば、ヘッジすると金利差によるインカムゲインが、先物レートのディスカウントにより相殺されるからでしたね。

今までの例を使い、もし1年後ドル高円安になっていれば、円キャリートレードによりインカムゲインだけでなく、為替差益というキャピタルゲインも得られることが出来ることとなります。他方、1年後円高ドル安になってしまうと、インカムゲインの儲けが為替差損により相殺され、へたをすればインカムゲイン以上に為替損を被る可能性があるということです。

ここが円キャリートレードのポイントです!つまり、円キャリートレードとは、金利が低い通貨で資金を調達して、ただ金利が高い通貨で運用して儲けるだけではなく、さらに為替益で儲ける必要があるのです!!ということは、円キャリートレードがうまく行くためには、将来「円安・ドル高」に触れる必要があるということです。

話は戻りまして、先物レートは金利差で決まることから、アメリカの金利が高ければ「必ず」先物レートは、ドル安・円高になることがわかりました。これは先物レートでは必ず成立します(カバー付き金利裁定条件)。

他方、上記の「カバー付き金利裁定条件」を応用したものが、「カバーなし金利裁定条件」です。カバーなし金利裁定条件とは、上記の例を使うならば、「今アメリカと日本の金利差は4%である。よって、将来金利が日本より4%高いアメリカのドルは4%減価する」という予想です。先物レートは必ず金利差で決まりましたが、将来の直物はどうなるかはわかりません。そこで、将来の直物も先物レートのように、金利差だけ減価するというように予想するということです。

では、金利が高い通貨は実際には先物レートのように、減価しているのでしょうか?続きは次回です。
<参考文献>

藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義 (光文社新書)

藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義 (光文社新書)

【コメント】
伝説のディーラー藤巻さんの本です。今まで読んだ金融の本や経済の本の中では、マーケットを学ぶにはダントツでお薦めの本です。社会人になってから同書を読みましたが、今までに読んだ本には書かれていなかった金融の仕組みや実務で必要な大切な事がたくさん書かれていて、目から鱗の連続でした。ディーラーが書いただけあって、先物スワップでいかに儲けるかなどもかかれており、非常に実践的で参考になります。マーケットの仕組みを理解するためには必読の本です。