日本経済の不況の原因は何か12〜フォワードディスカウントパズルと為替の実証研究〜

前回では、竹森先生の「世界経済の謎」やフルート(1990)を引用し「短期的には金利が高い通貨は、先物レートが示しているように必ずしも減価しない」ということについて述べました。このことは、「フォワードディスカウントパズル」と呼ばれ、経済学の中でも有名なパズルのひとつで、この謎に対する統一的な見解はまだない状態です。

ちなみに参考として「フォワードディスカウントパズル」に対して理論的な解明を試みているものとしては、齋藤・福田(1997)の「フォワード・ディスカウント・パズル:展望」があります。

では、最新の実証研究では、「金利が高い通貨は、減価しやすい傾向にある」と言うカバーなし金利裁定条件は成り立っているのでしょうか。そこで本日は日本銀行ワーキングペーパーにある「為替市場のボラティリティとカバー無し金利平価」をご紹介したいと思います。この論文ではレジームスイッチングモデルを使い、為替レートとそのボラティリティ、内外金利差について分析しています。主たる結果は以下の通りです。

(1) 為替レート変動のかなりの部分は、金利差との関係の変化に起因する。
(2) 低金利通貨の増価は、減価と比べ、頻度が低いが、発生した場合の動きは速い。
(3) 低金利通貨の減価と低ボラティリティ環境の間には、相互依存関係がある。
(4) 上記(1)〜(3)の結果は、為替レート変動の計測期間別にみると、6か月よりも3か月の方において、より明確である。

 これらの結果は、以下の様な市場参加者の見方と整合的である。すなわち、金利通貨安の背後には、短期的な投資を中心としたキャリー・トレードの影響があり、特に低ボラティリティ環境下ではこうしたポジションが構築されやすいが、一旦巻き戻されると低金利通貨は急騰し、ボラティリティも高まり易いとの見方を裏付けるものとなっている。

上記の研究結果はまさに円キャリートレードサブプライムショック前までは活発的に行われていたものの、サブプライムショック後は円キャリートレードの巻き戻しが起こり、急速に円高に進んだことともある程度整合的です。

すなわち、上記の研究結果を今回の円キャリートレードに置きなおすと以下のようなことがいえます。

今回の円キャリートレードの教訓として「低金利通貨の増価は、減価と比べ、頻度が低いが、発生した場合の動きは速い。」「一旦巻き戻されると低金利通貨は急騰し、ボラティリティも高まり易い」というFact Findingsは肝に命じておきたいものです。

P.S
実は初めて為替の実証論文を読みました。学生時代には為替にはほとんど興味がなかった(というか、触れる機会もなかった)ですが、社会人になって日々マーケットを見て後付で理解しているつもりでいる中、ふと経済学の実証論文を読むと不思議なものでめちゃくちゃ面白く感じます。

社会人になってから久々に実証研究の論文を読みましたが、意外と内容はわかるものの、計量経済学のテクニカルな部分はほとんど分からなかったです・・・。さすがにOLSのところまでは理解できましたが(苦笑)