転換期の経済思想を考える
10月21日の日経経済教室では、本ブログでも度々登場している慶応大の小幡先生が寄稿されています。
今回の論文の内容は経済危機と経済思想についてでした。過去幾度となく経済構造の変化が起きたときには、政権の交代が起こっています。そしてそのような時には経済思想の歴史的な転換点にもなることが多いです。具体的には以下のようにです。
世界金融危機から1年後、日本でも政権交代が起こりました。では、その背後にはどのような新たな経済思想があるのでしょうか。ポイントは以下の3つです。
- 生活が第一→生産者優先政策から消費者優先政策へ
- ムダの根絶→質的な小さな政府。賢明な消費者の資源配分能力を重視
- 官僚主導から政治主導へ→民間経済主体による自由な選択を尊重
生産者優先政策から消費者優先政策とは、言い換えれば、資源配分を供給側よりも需要側に委ねる政策だといえます。ただし、需要を強化するといっても、かつてのニューディール政策のように政府主導で穴を掘って埋めるというような財政政策を行うのではなく、消費者重視で、需要を強化するというものです。
私自身はサプライサイドの考え方に少なからず影響を受けていたので、今回の小幡先生のデマンドサイドの考え方は衝撃的でした。たしかに、民間の需要に資源配分を委ねた方が、効率性が高まると思います。
ありそうでなかった考えだったので、これは目から鱗でした。ただ、よくよく考えると需要重視とは、結局のところ顧客重視のことなので、経済学ではビジネスで最も重要なこの視点が欠けていたということでしょうか(苦笑)ミクロ経済学の一般均衡理論では、ある一定の仮定の下では個々人が利己的な行動をすれば効率的な資源配分達成されるとされていますし。
民間の需要に資源配分を委ねるということがミクロ経済学で議論されているかどうか知っている人がいたら教えてください(笑)(というより、そもそもミクロ経済学に『民間』という概念はないと思いますが。)
【セミナー6】読書の秋!達人読書術&読書会2〜読書会の実践〜
前回参加したセミナーでは、後半に読書会の実践もありました。今回はその内容をレビュー致します。
読書会とは
- コンセプト
- 読みたい本を持参し、その場で読み、内容をプレゼンする。
- ビジネス書を読む力、習慣をつける。
- 読んだ内容を他者へ伝えるアウトプット力・プレゼン力を高める。
- 時間
- 読書時間15分
- プレゼン時間一人3分
- 15分読書のPOINT
- 目次を全部見る
- 全体をざっと読む
- はじめに、おわりにをきっちり読む
- はじめにのチェックリスト
- 「対象読者」は誰か?
- 著者のねらいは?
- 各章のエッセンスが書かれているか?
- 参加した感想
- 15分あれば、思ったよりも全体像は掴める。
- アウトプットを意識することで、効率的に読むことが出来る。
- アウトプットをすることで、読んだ内容が定着しやすい。
- メリット
- 強制的に本を効率よく読む機会を得られる。
- 読んでいない本が読める。
- 読書会を月に一回実施、参加5名だとしても、参加者は年で12×5=60冊分のレビューが可能。
セミナーの読書会では、フォトリーディングを実践していらっしゃる方も何人かいました。私は速読やフォトリーディングは出来ませんが、15分あればなんとか概要は理解することが出来ました。会社でも何人か集めて実践してみましたが、インプットとアウトプットが効率的に出来、参加した方からは非常に好評でした。読書会は引き続き続けて行きたいと思います。
ちなみに読書会で私が読んだ本は以下です。
[rakuten:book:13236095:detail]
【参考文献】
- 作者: 藤井孝一
- 出版社/メーカー: 日本実業出版社
- 発売日: 2008/10/23
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- 作者: ポール・R・シーリィ,神田昌典
- 出版社/メーカー: フォレスト出版
- 発売日: 2001/09/19
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【セミナー6】読書の秋!達人読書術&大読書会
先日、読書の秋!達人読書術&大読書会に参加しましたので、内容を軽くレビュー致します。
セミナーは以下の3つの部に分かれていました。
- 「いつも目標達成している人の読書術」講師 丸山純孝さん
- パネルディスカッション「実録!私はこうしてビジネス書を使い倒している」
- パネラー:鹿田尚樹さん(読むが価値)、聖幸さん(俺と100冊の成功本)、丸山純孝さん(エンジニアがビジネス書を斬る!)
- ファシリテーター:藤井孝一(ビジネス選書&サマリー)
- 「読書会」ガイダンス&体験
本日は丸山純孝さんの「いつも目標達成している人の読書術」の講演をレビューします。丸山さんは、amazonランキング1位を獲得した「いつも目標達成している人の読書術」の著書としても有名です。
- 作者: 丸山純孝
- 出版社/メーカー: 明日香出版社
- 発売日: 2008/09/03
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今回の講演で丸山さんは、「そもそも読書とは何か」というお題から始まって、「読書をどのように役立てるか」ということについてお話されていました。読書会のセミナーにうってつけの講演であり、また途中ワークも組み込まれていて、非常に興味深い内容でした。
では、そもそもいったい読書とは何でしょうか。私にとって読書は非常に身近なものですでに生活の一部になっていたので、それほど深くは考えたことはありませんでした。そんな中、1分間で「何のために本を読むのか」というお題でワークが出されました。1分間で考えた私の答えは以下の通りです。
- 知識の吸収
- 新しいことを創造するため
- 生産者になるため
- 知を活かすため
- 知を残すため(output)
- 情報を共有するため
- 自分の考えを確立するため
- 歴史に学ぶため
- 業務上必要になるため
- 世の中のことを知るため
- 世の流れを把握するため
けっこうきつかったです。全部で11個でしたが、一部重複している内容もあるため、私が1分間で思いついた読書の目的は8〜10個ぐらいということでしょうか。
講師である丸山さんが考える読書の目的についてですが、丸山さん曰く、読書には「オモテの目的とウラの目的」があるとのことです。オモテの目的は、読む対象の本に対して我々が持つ目的となります。例えば、料理本を読む際には「料理を学びたい」ということが目的となります。
他方、ウラの目的とは「やりたいことの裏に本当は何があるのか?」ということです。料理本を例にとるならば、料理本を読むオモテの目的は「料理を学ぶため」となりますが、ウラの目的は「恋人に料理を作るため」であったり、「栄養管理をするため」かもしれまん。さらに「恋人に料理を作るため」の背後には「恋人に喜んでもらいたいため」といった真の目的がある可能性もあります。
読書において重要なことは、「なぜ本を読むか」というオモテの目的の背後に存在するウラの目的を認識することにあると丸山さんはおっしゃっていました。そうすれば、本を読む際に「全部読む必要があるのか、それとも一部だけでよいのか」や「自分の目的に合わせて本の読む方を変える」などが自然と出来るようになるはずです。私でいえば、上記で書いたことを常に念頭において読むことが大切になってきます。
次に「そもそも読書とは何か?」についてです。丸山さんは「共通言語を作ること」だとおっしゃっていました。なるほど、私は経済本やビジネス書を読むことが多いのですが、大学院時代の同期の友人やビジネス書を常時読んでいる人と話すときは、「話が早い(すぐにコミュニケーションをすることが出来る)」と感じるときがあります。これはまさに読書を通して共通言語を互いに有しているからだと思います。他方、共通言語がない人と経済の話をするときは、話がかみ合わないときがけっこうあります。これは共通言語がないからだと思われます。
次に読書の役立て方についてです。読書は、読んでinputしたことを何らかの形でoutputすることで、効果が何倍にもなります。他方、読書(input)をしても役立て方がわからない(output出来ない)という人もけっこう多いと思います。役立て方の例としては具体的には以下があげられます。
- (知識の)取得
- 定着
- 貢献
- 類似性の発見
- 自然に出来る「人脈」
では、結局のところ、読書とは何でしょうか。丸山先生の答えは、「自分の設定するゴールへの道具」になるということです。
自分のゴールが明確な人は、読書をすればするほどゴールに近づくことが出来ると思います。ゴールが明確でない人は、「自分のゴールを見つける」というウラの目的を持って読書をすることで、自分のゴールをみつけやすくなると思います。
私も今後読書する際は、上記で記載した自身のウラの目的を意識したいと思います。
モラトリアムについて考える②
前回の続きでモラトリアムについてです。今回からはモラトリアムのことを踏まえて「そもそも金利とはいったい何か?」について考えてみたいと思います。
実務で働いていると、金利は多くの場合「リスクフリー資産(例えば、国債)やLibor、Tibor、長プラといった基準金利に比べて、対象となる金融商品やローンがどれほどリスクがあるかを表したもの」と考えられることが多いように思われます。(完全なる私見ですが。)
具体的には、ローンや金融商品における元利払いについて、支払いのリスクや不確実性が高い場合には、金利(要求利回り)は高くなり、逆に低い場合には金利は低くなります。
証券化では優先劣後構造を用いることで、金利の支払をリスクに応じて分けています。例えば、支払の確実性が高いシニアはスプレッドが薄く、支払の確実性が低くなるメザニンは、スプレッドが厚くなります。
なお、CMBSでは、シニア部分がさらにAAA、AA、A、BBBなどに細かく分けられて金利が支払われます。そして、AAAの商品はL+30bps、AAはL+50bps、AはL+70bpsという風になります。(L:Libor)この金利と格付けを決めるのが格付け会社です。
なお、リスクが高い場合は金利が高くなり、リスクが低い場合には金利が低くなるということは、期待効用仮説を用いれば数学的にも示すことが出来ます。
金利を「基準金利に比べてどれぐらいリスクがあるかを表したもの」と考えることは実務で働いていると、直感的にもイメージしやすいと思います。ですが、金利の意味はもちろんこれだけではありません。過去多くの経済学者が金利の意味について考えてきました。金利はケインズやマルクスといった経済学の巨匠達も取り組んだ経済学の王道の分野でもあります。
次回から金利の経済学的な意味を概観するとともに、金利の機能がモラトリアムによって放棄されるとどのような影響があるかを考えて行きたいと思います。
P.S
厳密には「リスク」と「不確実性」という概念は異なります。リスクは確率分布を想定できるもの、不確実性は確率分布さえ想定出来ない、真に不確実な状況を示しているものとなります。そして後者を「ナイトの不確実性」といいます。詳しくは下記の文献を参考にしてみてください。どちらも抜群の名著です。
- 作者: 小林慶一郎,加藤創太
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
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- 作者: 竹森俊平
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モラトリアムについて考える。
最近亀井金融担当大臣が提案している返済猶予、いわゆるモラトリアムが非常に話題になっています。どのような内容になるかは明確に決まってはいませんが、先日のニュースでは以下の案があるとのことです。
元利金の支払いを猶予する約3年間、国が貸し手の地域金融機関に利子を補給するほか、借り手の企業が倒産した際には元本を補てんする。
モラトリアムについて、ここ最近ずっと考えをめぐらせていました。まず感じたことが「最適な資金配分が達成されるのか?」ということでした。モラトリアムが仮に実行されたとします。話が複雑になるので、単純化して利子だけを猶予することになったと仮定しましょう。すると、そこで行われることは、
銀行の利息収入がなくなる。
→銀行へ支払うべき利息を企業が留保できる。
→銀行の利息収入分を国が補填する。
マネーの流れで考えるならば、税金→銀行→企業となります。このようなモラトリアムによって達成される人為的な資金の配分が、市場で決定される金利のシステムよりも優れているとは到底思えません。
このことは株式市場の重要性を考えれば、より明確になってきます。株式市場の凄いところは、非常に参加者が多いマーケットの中で、「どの企業が優良か」ということに関して、株価という基準で測ることが出きる点にあります。
優良な企業にはマネーが集まり株価は上昇し、経営がいまいちな企業からはマネーが逃げて行き、株価が下落します。結果として、短期的にはともかく、長期的にはマネーは最適に近い形で企業に資金配分されることとなります。(もちろん、時としてバブルが発生する点など問題もありますが)
株式市場で達成されるような最適な資金を配分を国が達成出きるのか?といえば、まず不可能でしょう。社会主義が崩壊したことからも明らかです。
翻って今回のモラトリアムについてです。中小企業には株式市場は存在しません。代わりに中小企業のマーケットでは、金利が重要な役割を果たすこととなります。すなわち、金利が企業の優良さを測る基準となるのです。モラトリアムを実施するということは、この金利という最適な資金配分を達成するための目安となる基準を放棄することになります。
モラトリアムという考え方自体は悪いとは思いません。ですが、金利という機能を放棄してまで達成される人為的な資金配分が、本当に企業にとって、国民にとって、そして日本経済にとって有益なのかをまずはきちんと議論する必要があるのではないでしょうか。
「東大・林教授、一橋大学に 異例の移籍」を考える。 Appendix
東大林先生の業績について簡単にまとめました。
①トービンのQ
投資のトービンのQの理論において、限界のQと平均のQがある仮定の下では、一致することを林先生は数学的に証明しました。このおかげでトービンのQを用いた実証分析が可能となりました。投資関数の研究では、多くの場合Hayashi(1982)が引用されています。修士1年の時に本論文を読みましたが(というか授業で読まされました)、あまりに綺麗な数学的な証明で感銘をうけたのを今でも覚えています。
伝説的なこの論文“Tobin's Marginal q and Average q : A Neoclassical. Interpretation”のリンクはこちらです。
②プレスコットとの共著論文
最近では、2004年にノーベル経済学賞を受賞したプレスコットととの共著論文である"The 1990s inJapan: A Lost Decade"が非常に有名です。この論文でHayashi Prescottは、日本のバブル崩壊後の長期停滞の原因は需要不足にあるのではなく、供給サイドにあることを指摘していました。
簡単に説明すると、日本の長期停滞の原因は需要と供給の裏側にある技術革新(TFP)の停滞によるものだということです。Hayashi Prescott(2002)はこちらに掲載されています。
また本論文は、例えば以下の本で易しく解説されています。
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- 作者: 池尾和人,池田信夫
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あと、Hayashi Prescott(2002)は池田信夫氏のブログでよく引用されています。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/82e37ae447724f8268cbc6784dc0b9fd
http://210.165.9.64/ikedanobuo/d/20090302
③計量経済学のテキスト
林先生がグローバルで使われる大学院レベルの計量経済学のテキストを書いていることも特筆すべきことです。大学院レベルの計量経済学といえば、HayashiのEconometricsかGreenのEconometric Analysisかといわれるぐらい定番で使われます。日本人が書いた教科書が、世界中の大学院でスタンダードとなっていることは極めて異例ではないでしょうか。このHayashiのEconometricsの特徴は、数ある計量経済学の手法をGMMという視点から体系的にまとめたという点にあります。
私は修士1年の後期に後者のEconometric Analysisで計量経済学を学びましたが、東大では林先生が直々に修士1年の前期からEconometricsを使って講義をするようです。林先生の授業は一発目からOLSをGMMを使って説明するそうなのですが、繰り返しになりますが、院入学時の私のような計量経済学の素養がない人は初回から即死すること必至だと思います…。ちなみに林先生によるEconometricsの解説ページはこちらです。問題の解答や実証分析で使われたデータがUpされていて非常に重
テキストは以下の通りです。
- 作者: Fumio Hayashi
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- 作者: William H. Greene
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④林先生の厳しさ
「私が書く米欧の大学院向けの推薦状について」を読めば、林先生がいかに厳しいかがわかります。厳しい中にも、林先生の優しさが見える最後の補足はちょっと泣けます。
「東大・林教授、一橋大学に 異例の移籍」を考える。
いきなりですが、先週発表された下記ニュースについてです。
東大・林教授、一橋大学に 異例の移籍
マクロ経済学や計量経済学が専門の林文夫・東京大学教授(57)が10月1日付で一橋大学の教授として移籍することがわかった。東大経済学部の教授が定年前にほかの国内大学に移るのは極めて異例。国内の有力大学間の競争が加速するなかで、人材の争奪戦が一段と激しくなりそうだ。
林教授は生産性の分析などで学界内での評価も高い。一橋大大学院の国際企業戦略研究科に所属する。林氏は東大などで学んだ後、米ハーバード大学で経済学博士号を取得。1995年から東大教授を務めている。移籍は9月30日に開かれる東大経済学部の教授会に報告される。
かなり衝撃的なニュースです。お笑いで例えるならば、ダウンタウンが松竹芸能に電撃移籍するみたいな感じです。
林文夫先生の凄さはなんといっても現役の日本の経済学者としては、日本で1位、2位を争う実績を、いわんや世界でもトップクラスの業績を持っているということです。まさに「世界のHayashi」です。林先生の凄さは次回書くAppendix①〜④を参考にしてみてください。
林先生は東大→ハーバードPh.Dという超エリートコースの上、ペンシルバニア大学教授という海外でのアカデミックポストも経験しておられ、日本の経済学者ではエースといえる存在です。
そんな林先生がなぜ、東大から一橋へ・・・。間違いなく一つだけいえる事は、例えばお金を目的とするような私利私欲のための移籍ではないということです。
林先生ほどの実績があれば、米アイビーリーグで教授のポストを得ることもそれほど難しくないでしょう。ですが、林先生はかつて海外のアカデミックポストを捨てて、東大の教授となりました。
その理由は、「日本の経済学のレベルの底上げのため」だそうです。ノーベル経済学者がひしめくハーバードやシカゴで研究することを放棄し、日本の経済学のレベルを上げるために、林先生は東大の教授を選んだそうです。(この話を聞いたときは心から感動しました。)
そんな林先生が一橋に移籍する理由はいったい…。ここでのポイントは、林先生の移籍先が一橋の経済学研究科ではなく、神田にある社会人向けMBAの国際企業戦略科(以下、ICS)だということです。
ICSへの移籍を考えると、あくまで私の仮説ですが、おそらく移籍の理由は「社会人教育のため」だと思われます。
一橋のICSはMBAといえど、実務を重視というよりも、どちらかというとアカデミック色が強いといわれています。私もかつて願書を取り寄せたことがありますが、入学に必要な知識のレベルが高くて正直驚きました。間違いなくゼロからファイナンスや計量経済学を学ぶ場ではなく、ある程度知識がある人がさらに知識を深めるために行くMBAです。(ネットでの例えが面白かったのですが、ICSはそもそも強いサイヤ人をもっと強いスーパーサイヤ人にする場であって、弱い地球人を強いサイヤ人にする場ではないということでした。)
並みのMBAならば、Ph.D用の計量ファイナンスの教科書であるキャンベル=ロー=マッキンレーをまず原書で読んだりしないと思います。(邦訳は一橋ICSの教授陣による)
- 作者: John Y.Campbell,Andrew W. Lo,Craig Mackinlay,祝迫得夫,大橋和彦,中村信弘,本多俊毅,和田賢治
- 出版社/メーカー: 共立出版
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そのようなICSだからこそ、林先生は移籍する決意をしたのではないでしょうか。すなわち、かつて経済学のレベルの底上げをするために日本に戻ってきたように、社会人の計量経済学のレベルの底上げをするためにICSへの移籍を決意したと。確かにMBAがない東大ではこのような社会人の計量経済学のレベルの底上げは出来ません。
仮に移籍の理由が「社会人の計量経済学のレベルの底上げをするため」だとすると、邪推ですが、林先生の問題意識は今回のサブプライムショック・リーマンショックで明らかになったと社会人の計量経済学やファイナンスに対する知識のなさへの危惧かもしれません。
ところで、林先生のモチベーションが「社会人の計量経済学のレベルの底上げをするため」だとして、ある程度計量経済学の知識がある社会人にとっても、林先生の授業をこなすのはかなり厳しいことだと予想されます。
学会で一度林先生のプレゼンを聞いたことがありますが、体育の先生を思い出すほど、厳しい先生でした。もし、ICS所属の社会人が「林先生って誰?」みたいな感じで、林先生の授業を受けると、ボコボコにされること必至です。
詳しくはAppendix3を見れば、林先生の授業のレベルの高さがわかると思います。私も大学院で計量経済学のスパルタ教育を受けたのでわかりますが、ある程度の数学的素養と統計学の知識、そして英語力がないと計量経済学を学ぶのは本当にきついです。
林先生がICSに移籍することで、ICSの計量経済学のレベルは今まで以上に高くなると思われます。ですが、学生のニーズが果たしてアカデミックな授業にあるのかどうかが課題だと思います。
林先生による実務で活かすための世界レベルのアカデミックな授業(Supply)と学生によるアカデミックの知識を実務で活かすという学習意欲(Demand)がマッチすれば、この移籍は新たなMBAの潮流を作るかもしれません。そうなれば、アカデミックにも実務にも相互によい影響を与えそうです。個人的にはその流れに期待したいです。
以上、林先生の移籍についての考察でした。
色々書きましたが、大学内は色々と人間関係が難しいようなので、もしかしたらただ人間関係がこじれての移籍かもしれませんが…。
最後までお付き合いしてくださった方、ありがとうございます。