なぜリーマンは救済されずに破綻したのか?1
現在「日本経済の不況の原因は何か」を書いていますが、ここでは世界金融危機の原因については直接は言及せずに話を進めています。すなわち、世界金融危機を所与のものとして、日本経済の不況の原因を書いている状況です。というのも、日本経済の不況の原因について金融危機も織り交ぜながら書いていくと話が複雑になりすぎて、結局何を書いているか方向を見失うことを懸念したからです。
しかしながら、現在の世界不況についてその発端となるアメリカの金融危機もやはり無視することは出来ません。ということで、別のカテゴリーを設け、そこではアメリカの金融危機についてそれぞれのトピックにわけ、個別に解説していきたいと思います。
今回から書いていくのは「なぜリーマンブラザーズは救済されずに破綻したのか」ということです。今回の不況が「100年に一度の金融危機」と呼ばれるようになったのは、全米第4位の投資銀行リーマンブラザーズが破綻してからです。
事実、元リーマンブラザーズの幹部(マネージングディレクター)が「リーマン・ブラザーズ破綻の真相と仕組みがわかれば、今の世界が、経済が見えてくる」というコンセプトで書いた「リーマン恐慌」という本にも以下のことが書かれています。
アメリカ財務当局がリーマン・ブラザーズを破綻させたことが今回の世界金融恐慌の引き金を引いてしまったことは、その後のあまりに急激な混乱の推移を見る限り、誰もが認めざるを得ないことだ。
きっと、「すべてはリーマン・ブラザーズの破綻から始まった」と後世の歴史書は書くことになるだろう。
ここで注目したいことは「リーマンが破綻した理由」というよりも、「リーマンが救済されなかった理由」についてです。
2008年3月に経営危機に陥った全米第5位の投資銀行ベア・スターンズは、JPモルガン銀行に買収されることで救済されました。なぜ、ベア・スターンズは救済され、リーマンは救済されずに破綻したのでしょうか?さらには、リーマンが破綻する直前に米住宅公社のフレディマックとファニーメイは救済され、またリーマンが破綻した翌日には、保険最大手のAIGの経営危機に関して、FRBの救済が発表されました。
ベア・スターンズ、ファニーメイ、フレディマック、AIGが救済されて、なぜリーマンだけ救済されなかったのか。今回の金融危機がリーマンの破綻から始まったとするならば、この謎について原因をさぐることは非常に重要といえます。次回からは、リーマンが救済されなかった理由についていくつかの仮説をご紹介していく予定です。
P.S
今回ご紹介した「リーマン恐慌」の冒頭には興味深い以下のエピソードが書かれています。
かのケネディ大統領の父親は、1920年代、アメリカの株式市場が活況を呈していたときに、思い切って資産を株式に投下し、富豪への道を切り開いた。そして、その後に襲いかかってきた大恐慌直前に、すべての保有株式を売り抜けていたことで有名になった。
決断のきっかけは、ニューヨークの街灯で靴を磨いてもらっているときに訪れた。
そのとき、靴磨きの少年はしきりに株の話をしていたのた。靴が磨き終わるまでのわずかの間に、ケネディの父親は手持ちの株の売却を考え始めたといわれている。
「こんな少年までが仕事の手を緩めて、株に浮かれている。これは危ない。」 そう気づいた彼の直感は当たり、ケネディ家は富豪のまま生き残ることとなる。
以前、野口先生の言葉を引用し、「一般の個人投資家が投機取引に乗り出し、その成功が喧伝されるのは、バブルがかなり進行した証拠である。」と書きましたが、このことは今から80年前も同じだったようです。
<参考文献>
- 作者: 岩崎日出俊
- 出版社/メーカー: 廣済堂出版
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