日本経済の不況の原因は何か20〜アナリストによる公示地価下落の分析〜

3月23日に発表された公示地価では、全国的に地価の下落が顕著でした。アナリスト達は、今回の下落をどのように分析しているのでしょうか。以下、4人のアナリスト・エコノミストの意見を御紹介します。

各アナリストの論点は以下の通りです。

  • 「東京圏・名古屋圏」では、「不動産投資の減少」が地価下落の大きな要因と考えられる。「東京圏・名古屋圏以外の都市圏・地方」の地価動向の下落は、人口動態によって説明できる部分が大きい。(みずほ証券 石澤氏)
  • 地価が下落することで、担保価値が下がり、銀行が貸し渋りをするようにならから、地価の下落は、設備投資にマイナスの影響を与える。(野村證券 木内氏)
  • 今くらいの下げ幅なら、大きな悪影響がすぐ出てくることはない。毎年下がり続けるとか、下げ幅が拡大してくると、金融機関の貸し渋りなど深刻な影響が出てくる可能性がある。(三菱R&C小林氏)
  • 実勢の地価は既に底入れしたとみている。。個人や中小企業が不動産取得を積極化していることがうかがえるという。(クレディスイス大谷氏)

詳細は下記をご確認ください。


1.公示地価下落の要因と今後の見通し=みずほ証券 石澤卓志氏

「東京圏・名古屋圏」と「それ以外」で異なる地価下落の要因 現在の地価は、不動産事業の収益性を重視した「収益還元法」による評価が一般的である。不動産の収益性は様々な要素で構成されているが、最終的には「不動産の利用者数」、すなわち人口で決定される部分が大きいと考えられる。
 このため、最近の地価動向は、おおむね人口動態で説明できる状況となっている。人口変動率(国勢調査による2000年〜05年の変動率)を横軸に、地価変動率(公示地価による圏域別・地方別の商業地の地価変動率)を縦軸に設定してグラフ化すると、08年の公示地価では、傾向線を右上がりの直線として得ることができた(図表1参照)。すなわち「人口が増加している場所は地価が上昇しているが、人口が減少している場所では地価下落が続いている」といった傾向が認められた。
 一方、09年の公示地価を同様にグラフ化すると、東京圏と名古屋圏は、この傾向線から大きく乖離(かいり)して下落している。このことから、「東京圏・名古屋圏」と、「それ以外の都市圏・地方」では、地価下落の要因が異なると考えられる。
 今回の公示地価において、「東京圏・名古屋圏」では、06年〜08年の公示地価で地価が高騰した場所を中心に、比較的大幅な地価下落が見られた。その多くは、これまで不動産投資の過熱が地価を押し上げていた場所である。したがって、「東京圏・名古屋圏」では、「不動産投資の減少」が地価下落の大きな要因と考えられる。 一方、「それ以外の都市圏・地方」の地価動向は、前述した通り、人口動態によって説明できる部分が大きい。これらの場所では、人口減少などに伴う「地域の活力の低下」が地価下落の大きな要因と考えられる。 「東京圏・名古屋圏」では、過去数年間の不動産投資の過熱によって地価が高騰した部分が調整されれば、地価下落が収まる可能性が高い。これに対して「それ以外の都市圏・地方」では、「人口の呼び戻し策」などによって地域の活性化を図らなければ、今後も地価下落が続く可能性が高いと思われる。


2.「複合デフレ」のリスクが浮上、地価下落で貸出抑制=野村証券 木内氏

野村証券金融経済研究所・チーフエコノミスト 木内登英氏>
 全国地価は3年ぶりに下落に転じた。都市部での地価下落率が特に大きかったが、これは輸出環境の急速な悪化を受けて、過去数年間の経済環境が相対的に良好だった都市部での景況感悪化が際立っている現在の経済状況と重なる。 グローバル金融危機を契機とする国内経済の急速な悪化は一般物価の下落をもたらしつつあるが、他方で資産価格の下落も始まっており、日本経済は数年前のデフレ経済に逆戻りの状況だ。
 日本では住宅価格下落が個人消費に与える影響、すなわち「逆資産効果」は概して小さいが、設備投資に与える影響は無視できない。その背景にあるのは、地価下落が銀行貸出の抑制を通じて企業の設備投資活動を抑制する経路だ。担保不動産の価値下落を受けて、銀行は融資先企業に追加担保差し入れ、ないしは貸出削減を要請することになる。即ち「貸し剥がし」、「貸し渋り」が生じやすくなる。その結果、経済活動に大きな制約が及びやすいのは、不動産業と不動産担保借入が一般的な中小企業となるだろう。 一般物価の下落に資産価格の下落、金融システムの不安定化が絡み合う「複合デフレ」のリスクが日本経済に再浮上しつつある。


3.公示地価こうみる:景気状況反映で違和感なし、下げ長期化なら深刻な影響=三菱UFJ・R&C 小林氏

<三菱UFJ・リサーチ&コンサルティング・主任研究員 小林真一郎氏>
 現在の景気状況から判断すると、地価がマイナスに転じる、ないしはマイナス幅が拡大しても、景気状況を反映した当然の動きであり違和感はない。少し前から、日本の地価は、土地が将来生み出すキャッシュフローから、理論的に決まるようになってきている。
 企業収益がここまで悪化すると、そのキャッシュフローも当然厳しくなる。オフィスも、これまでの都心回帰から一転して、賃料の安い所に移る。そうなれば土地そのものの価値も、それに見合って下落することになる。
 下がり方がバブル崩壊時のように急激であれば、金融機関が担保にとっている土地の値段が下がるなどの問題が、いきなり顕在化してくるが、今くらいの下げ幅なら、大きな悪影響がすぐ出てくることはない。ただ、毎年下がり続けるとか、下げ幅が拡大してくると、金融機関の貸し渋りなど深刻な影響が出てくる可能性がある。


4.「実勢の地価は既に底入れしたとみている=クレディ・スイス証券の大谷洋司アナリスト

クレディ・スイス証券の大谷洋司アナリストは23日付リポートにおいて、「公示地価は半年から1年ほど前のデータであり、現状の不動産市況を映したものではない。実勢の地価は既に底入れしたとみている」との見方を示した。
 同氏によると、①財団法人東日本不動産流通機構が発表している東京都の土地成約物件価格はほぼ横ばいで推移、②マンション市況の回復、 ③直近の不動産投資信託(REIT)の売買事例――などから、個人や中小企業が不動産取得を積極化していることがうかがえるという。同社では不動産セクターの「オーバーウエート」を強調した。